14時、原宿・ハラカド。
ここは、印刷を通してアイデアを“出力”するための実験室。その中心にあるのが、リソグラフ印刷だ。デジタルとアナログを交錯させながら、見知ったはずの日常と日用品を再編集するこの場所で、「創造の喜び」を見つめ直す。
リソグラフとは何か? 「印刷の偶然性」がもたらす魅力

リソグラフは、1980年に登場した日本発の印刷手法である。印刷を行う専用機も、見た目はよくある「コピー機」そのものだが、光学的にデータを処理する一般的なそれとは違い、シルクスクリーンやガリ板と同じ「孔版印刷」の仕組みを利用している。

デジタル化した写真やイラストデータから、プリントのたびにマスターと呼ばれる「版」を作り、それを通して紙にインクを押し出して像を描く。複数の色のインクを重ねることで、水彩のような絶妙な色味も表現できる。

デジタルプリントでありながらアナログの要素を併せ持つリソグラフ。それゆえ、偶発的なズレやかすれを生み出し、刷り上がった「コピー」に独特の風合いをもたらす。どこかレトロで奥行きのある質感が再評価され、近年、世界中のクリエイターからも注目されているのだ。
コピー・コーナーは、そんなリソグラフ印刷を実際に体験できる“共有の印刷所”。午後14時、原宿の喧騒から少しだけ離れて、自分だけのアイデアを「出力」してみたい。
リソグラフ体験で感じる、「私にとっての東京」

今回は、リソグラフ体験の中でも一番の入門編、カメラやスマートフォンで撮った写真をその場で出力するサービス「HARD COPY CLUB」に挑戦した。予約は不要、ふらりと気軽に訪問できるのが嬉しい。

まずは印刷する写真選びから。本日、自身に課したテーマは「私にとっての東京」。スマホの中から、この日何気なく撮影した原宿の風景と、お気に入りの場所である井の頭自然文化園の思い出を選ぶ。

用紙サイズはトレーディングカード・ポストカード・B5サイズの3種類。インクは2色印刷(組み合わせは4種類)と4色のフルカラー印刷から選べる。

同じ写真でも、インクの色が変わればまったく表情が変わる。今日の自分が選ぶ東京は何色だろうか? 見本を見比べながら悩む時間も、なんだかワクワクする。

サイズと色が決まったら、その後の作業はスタッフの手で実施される。プリントができあがるまでの工程もじっくりと見守りたい。
まずはパソコン上でマスターの元になるデータを作成。色の数だけ版が必要になるため、一枚の写真が要素ごとに切り分けられていく。
インクドラムを取り出して、リソグラフ本体にセット。作動音を響かせること数分、本体内でマスターが作成され、プリントが出力される。実体を伴う、確かな臨場感がなんとも愛おしい。

一色ごとに試し刷りをして印刷位置を確認。微妙なズレを少しずつ修正する作業も、リソグラフならではだ。コンマ数ミリ単位で調整を行うが、100%一致させることは難しい。

しかしながらこの「ゆらぎ」こそが、リソグラフ印刷の最大の魅力でもある。刻一刻と表情を変えるこの街の味わいにも、どこか似ている。色と色、その淡い重なり合いが創り出す瞬間。ひとつとして、同じ「東京」はない。

インクドラムの交換と製版、試し刷りを繰り返すこと数回、20分ほどでプリントが完成! 同じ写真でも、色の出方やかすれ具合が微妙に異なる。

何気なく切り取った風景と、もう一度出会い直すような感覚。「コピー」とは、均質化された「複製」である──そんな現代の価値観を覆す、不完全性の美学をリソグラフが取り戻してくれる。

