就労をゴールにしないひきこもり支援。ニーズに従い女子会を発足
――一般社団法人ひきこもりUX会議を立ち上げたきっかけを教えてください。
林:当事者として支援現場を見てきましたが、最近までのひきこもり支援はほぼ「就労支援」しかありませんでした。
働かせることがゴールとされていて、当事者にとってそれはあまりにもハードルが高かった。また、部屋から力ずくでも引っ張り出したり、ようやく相談窓口にたどり着いても、説教や説得、暴言を受けるなど、人権侵害にあたるようなこともありました。
こうした支援のあり方は、当事者のニーズと合っていないんですね。それは「当事者の声が届いていない」ことが原因だと感じ、当事者が中心となって活動し、発信しようと思ったのがきっかけです。
そこでまず企画したのが、ひきこもり状態にあった人たちが意見を発信する「ひきこもりUX会議」というイベントです。320人ほどの方が参加してくださり、「当事者の声を届けていく必要がある」と実感しました。
――「ひきこもりUX女子会」を始めた理由を教えてください。
林:従来の当事者会の参加者は、9割近くが男性で、女性が安心して参加できる場はほとんどありませんでした。性暴力や男性家族からの暴力、いじめの加害者が男性だったといった背景から、男性を苦手とする女性も多く、女性限定の場が必要だと感じました。そこで始めたのが「ひきこもりUX女子会」です。
現在は東京都の広域連携事業として、毎月都内のどこかの地域で開催しています。ですから、調子が整わず参加できないときでも、次のチャンスがあります。
また、自分の住むまちの窓口や当事者会には行きづらいという声も多いため、近隣の自治体同士が連携することにより、より参加しやすい環境になっていると思います。
――「ひきこもりUX女子会」の内容を教えてください。
林:2部構成で行っており、1部ではひきこもり経験者が自身の体験を語ります。幼少期から現在に至るまでのリアルな経緯を率直に打ち明けることで、参加者に「ここなら自分の思いを安心して話せる」と感じてもらい、自身の経験を語りやすい空気をつくるという意味もあります。
2部では、当事者/経験者は「女子会」に、広域連携事業に於いては当事者の家族や支援者は「つながる待合室」に分かれます。
――2部の「女子会」と「つながる待合室」ではどのようなことを話すのでしょうか。
林:「女子会」では、テーブルにテーマスタンドを置き、話したいテーマがある席に自由に座ってもらいます。
自己紹介を兼ねて「呼んでほしい名前」、差し支えのない範囲で「どこから来たのか」「なぜこのテーマについて話したいと思ったか」などを話し、あとはフリートークです。
「つながる待合室」は、当事者の家族や支援者が交流できる場で、性別を問わず参加できるので、男性の当事者が参加することもあります。もともと「女子会」に参加する当事者の中には、母親や姉妹が付き添って来られるケースもあり、2部の間、廊下やロビーで待っている方がいたことがきっかけでした。
「せっかくなら、その時間を交流の場にしよう」と考え、誕生したのが「つながる待合室」です。


- ※ 「ソーシャルファーム」とは、一般的な企業と同様に自律的な経営を行いながら、就労に困難を抱える方が必要なサポートを受け、他の従業員と共に働いている社会的企業のこと
「安心して来られる場」を最優先にした運営と支援の未来
――「ひきこもりUX女子会」に参加した方の声を教えてください。
林:徐々に変化が起こり、就労や自立に至った方や、結婚して子どもが産まれたという声も聞いています。
あとは、参加者同士で連絡を取り合うようになったり、会の後にお茶をしたりする人たちもいます。なかには、一緒に遊園地に行ったという人たちもいるんですよ。
女子会をきっかけに、社会との接点を少しずつ取り戻していく人が増えています。
――開催に当たって、意識していることを教えてください。
林:女子会に限りませんが、一番大事にしているのは、当事者が「安心して参加できること」です。
まず、参加のハードルを下げるために、原則予約制にはしていません。当日にならないと体調や気持ちが分からない方や、本名・住所・電話番号などの個人情報を知られたくない人も多いからです。
また、途中参加・途中退出も自由です。会場の一角には、他の参加者と交流せずに休める「非交流スペース」も設けています。当日は会場の扉の開閉角度にも工夫し、外からは見えないけれど、中に入りやすいように心がけています。
事前申し込み制ではないため、当日になるまで参加人数が分からないわけですが、私たちの活動の柱の1つに「最大の利益は当事者に」というのがあります。主催側の都合よりも、当事者が安心して来られることを最優先にしています。
――現場で感じる、ひきこもり女性支援の課題を教えてください。
林:課題はいくつもありますが、まず、女性が安心して相談できる環境が足りていないということはいまだ強く感じます。女性職員や、理解がある職員が支援の窓口にいることが重要ではないかと思います。
また、広域連携の支援がもっと広がって、全国どこでも相談ができるようになってほしいです。それに加えて各自治体の中でも、ひきこもりを含むさまざまな課題に連携して対応できる、縦割りでない支援体制が必要だと感じます。
さらに、行政がひきこもり支援策を作る場合には、当事者や経験者が入ることも望んでいます。当事者の意見を聞かずに進めてしまうと、ニーズとのずれが生じてしまいますからね。
