◆注意しても伝わらない虚しさ
しかし返事はない。少し強めに言っても気づく様子はなく、やがて女性の肘が中村さんに軽く触れた瞬間だけ、わざとらしく体を離したのだ。
「完全に起きてました。聞こえていないふりをしているんだと感じました」
注意を無視された虚しさが込み上げ、席を立つか、座ったまま耐えるかの二択。どちらを選ぶにしても気が重かったという。
そして、中村さんが降車のために立ち上がったとき、若い男性がすぐに“その席”へ座った。すると、それまでの大音量はぴたりと止み、女性はイヤホンを外した。
「やっぱり、私への嫌がらせで“わざと”だったのかなと思いました。身に覚えがなかったので、気分が落ち込みましたね」
中村さんは次の駅で電車を降りながら、自分に言い聞かせた。
「明日は、違う車両にしよう」
モヤモヤは残ったが、気持ちを切り替えつつ改札へ向かったという。
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。

