◆トラメガもない、警察もいない

「ヘイトスピーチ解消法で、差別をすることは禁止されています。そんなことも知らない、違法行為だということも知らないバカの集団が、いまからここで街頭宣伝活動を開きます。みなさん、ヘイトスピーチに注意して下さい」
トラメガを通したカウンターの声だけが、秋葉原駅前に響き渡る。街宣する側はスピーカーもトラメガも持っていないようだ。
カウンターに対して、困惑しながら「今日じゃなくて別の日にしたほうがいいよ」などと話し合ったり、何か耳打ちし合ったり。ネットで事前告知をしていたくせに、カウンターが来ることを想定していなかったかのような反応だ。
事前に警察との打ち合わせもしていなかったのか、警官の姿はない。こうした「揉めがちな現場」では通常、警察が簡易な柵を設置するなどして街宣側と抗議側が入り混じらないよう整理したりするが、それもない。街宣側とカウンター側が入り乱れている。
◆排外主義配信者の「耳ティッシュ君」
街宣側の配信者がスマホに向かって喋っていた。「秋葉原の駅前にモスクがありますが、ムスリムの教えは許されるものではありません。人権侵害をする宗教は、入れてはいけません。モスク撤回、モスク撤回。宗教の自由は認められていますが、ムスリムだけは危険です」
この配信者は、排外主義デモなどの現場でよく目撃される。ある時、カウンターのトラメガの音量への対策のつもりなのか、耳に詰めたテッシュの切れっ端が耳から垂れていたことから、「耳ティッシュ」の愛称で呼ばれている。
街宣ではなく配信でヘイトスピーチをしていた耳ティッシュ君に、カウンターの男性がトラメガなしの肉声で詰め寄った。
「ヘイト・スピーチするんじゃねえって言ってんだよコラ。帰れ!」
目を合わせず逃げ回る耳ティッシュ君。「消えろ! さっさと消えろ!」と追い回すカウンター。
耳ティッシュ君は、他の現場でも、男性に叱られるとすぐ逃げる。そのくせ、黙って抗議のプラカードを掲げる女性のカウンターに近寄っていって嫌がらせをする。カウンターたちの間では、抜きん出た陰湿さで知られた存在だ。

