◆集団は街宣せずに逃散
結局、街宣は行われないまま集団は解散してしまった。「解散」というはっきりした号令もなく、現場リーダーらしき女性も含めて、バラバラにだんだん離脱していく。櫛の歯がかけるように。遅れて到着したカウンターも加わって、いつの間にか街宣側の集団の数を上回っていた。「この人たちしばき隊~」などとニヤけながらカウンターを挑発していた高齢女性が駅前広場を後にすると、街宣集団は完全に消滅した。
「あの人は、自民党解体デモの時に、自民党本部に向かって(指で印を結んで)呪詛をぶつけていた人。呪詛おばさんに再会できたのは収穫だった」
と、ウォッチャーの1人は満足げだった。
その後もカウンターたちは、彼らが場所を変えてゲリラ街宣を行うことを警戒していた。
「どうも岩本町方面に向かったらしい」
「モスクがある方向じゃないか?」
「モスク(前での街宣)はまずい。いちおう見に行っておくか」
モスクまでは、徒歩10分ほど。一部のカウンターが監視のため駅前広場に残り、ほか数人がモスクへ。ウォッチャー勢も一緒にモスクへ向かった。
◆逃げる耳ティッシュ、追うカウンター
モスク前では、耳ティッシュ君が、1人でモスクに向かってスマホを構えていた。ヘイトスピーチ配信をしているようだ。耳ティッシュ君は我々に気づくと、走って逃げ出した。つられて、私はつい叫んでしまった。
「ティッシュが逃げたぞ~!」
ウォッチャーだったのになぜか最近はトラメガを持参したり中指を立てたりして、カウンターなのかウォッチャーなのかわからなくなっている男性が、すかさずダッシュで追う。
後でよく考えたら、耳ティッシュ君がモスク前からいなくなればいいだけのことだったのかもしれないが、その時は、逃げるものを見たら追いかけたくなる「獣としての本能」に抗えなかった。後続の数人のカウンターも、ウォッチャー勢も私も、全員がなぜかとにかく耳ティッシュ君を追った。耳ティッシュ君は必死のダッシュで遠のいていき、角を曲がり、見えなくなった。
「今度からあいつのこと耳ダッシュって呼ぼうぜ」
新しい愛称が誕生した。

