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なぜ「笑い」は体にいいのか? 作り笑いも効果 医師が解説する笑いの力と笑いヨガ

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Kues / Shutterstock.com

 メラニン・ビーは、伸びをする猫のように背中を弓なりにし、狂気じみた、無理やりの笑い声を絞り出す。

 「オー、ホッホッホ、イー、ハハハ」という速射砲のような作り物の笑い声は、すぐに本物の笑いへとさざめき出し、彼女は浮かれたように足をばたつかせる。

 彼女が練習しているのは、自分で考案した抱腹絶倒のヨガルーティン「ラファステ」だ。1990年代にインドで生まれた「笑いクラブ」の流れをくむという。最初は気まずく感じるが、「できるようになるまで演じ続ければいい」と彼女は言う。

 「ぎこちなさを受け入れてもいいと思えるようになることが大事だ」と、ロサンゼルスのコメディアンで講演者でもあるビーは語る。「そうすると自分の中に、ばかばかしさの種みたいなものが見つかって、それが意図せず笑いを引き出してくれる」

 笑いクラブは、笑いがストレスを和らげるという、ごく当たり前の考えに基づいていた。だが、腹の底から笑うことは、心臓や免疫系などにもよく、ほかにも多くの健康上の利点があると、ペンシルベニア大学の循環器内科医で医学教授のマイケル・ミラー医師は言う。

 「運動は週に少なくとも3〜5日、とよく言うでしょう」とミラー医師は語る。「腹の底から笑うのも、週に少なくとも2〜5日で」

◆笑いの研究
 古代ギリシャの賢人からフロイトに至るまで、笑いの根源や意味合いについて語った著名人は多い。だが、現代的な笑いの研究「ゲロトロジー」が立ち上がり始めたのは1960年代だ。

 スタンフォード大学の心理学者ウィリアム・F・フライは、ゲロトロジーの創始者の1人とされる。彼はローレル・アンド・ハーディ(訳注:20世紀前半に活躍したアメリカの喜劇コンビ)を見ながら自分の血液を採取し、笑いが免疫を高める血球の数を増やすことを見いだした。

 1995年、ムンバイの医師マダン・カタリアは、健康雑誌の編集者としてストレス管理に関する記事を取材する中で、新たな研究動向を耳にした。自分のストレスに対処するため、公園で毎日開く最初の笑いクラブを始めた。参加者は当初は数人だったが、1カ月で150人を超えるまでに膨れ上がったという。

 グループがすぐに冗談を使い果たすと、カタリアは横隔膜を動かす運動を作り、ヨガの呼吸法や軽いストレッチ、わざとばかばかしい音や動きを取り入れた。

 「最初は作り笑いだったが、数秒で皆が腹を抱えて笑っていた」とカタリアは言う。

◆笑いはなぜ体にいいのか
 ミラー医師は1990年代に笑いの研究を始めた。研究参加者に面白い映画を見せたところ、笑いによって脳内でエンドルフィンが分泌され、血管で有益な化学反応が起きることが分かった。例えば一酸化窒素は血管を拡張させ、血圧、炎症、コレステロールを下げる。

 その組み合わせによって心筋梗塞のリスクが下がるという。さらに、エンドルフィンは天然の鎮痛剤でもある。

 「本当に大笑いした後は、とてもリラックスして体が軽く感じる」と、フィラデルフィア退役軍人局の主任医師でもあり、笑い療法プログラムを導入しているミラー医師は言う。「痛み止めを飲んだみたいなものだ」

 強制的な笑い――学術的には疑似的な歓喜(シミュレーテッド・マース)――は、自発的な笑いよりも、むしろ有益かもしれないと、ドイツのイェーナ大学で医療心理学の上級研究者を務めるジェニー・ローゼンダールは述べる。

 ローゼンダールは、45本の笑い研究を対象にしたメタ分析などを行い、笑いを誘発する療法が血糖値、ストレスホルモンのコルチゾール、慢性痛を低下させることを見いだした。特に高齢者では、可動性と全体的な気分も改善したという。

 ユーモアは主観的で測定が難しい。だからこそ、近年の研究の多くは、30〜45分のセッションで持続的な笑いを引き起こす「笑いヨガ」など、似たプログラムに焦点を当てているとローゼンダールは言う。

 笑いヨガは、うつに苦しむ人やがん患者など、そもそも笑う気になれない人にとって特に効果的だという。擬似的な笑いでも、生理的な仕組みは同じだ。吸う息と吐く息が増え、筋肉活動も増える。そうした反応が気分の改善にもつながる。

 「幸福感は裏口から入ってくる」と彼女は言う。「まずはエクササイズとして始めて、後になって自発的な笑いが出てくる。人が笑っているのを見るのがおかしいからだ」

◆もっと笑うには
 最近のビデオ通話でカタリアは、コツは理由もなく笑えるようになることだと語った。世界各地の笑いヨガのクラスでは、彼やほかの指導者が、それを助ける数百の運動を作ってきたという。

 最も簡単なのはこうだ。もう1人と一緒に、互いの目を見て、1分間「ハ」という音を繰り返す。あるいは「息を吸って笑う」を試す。深く息を吸いながら両手を胸元に当て、3秒息を止め、息を吐きながら手を前に伸ばして笑いを爆発させる。

 笑いヨガのクラスでは、宇宙人のようにあいさつするふりをしたり、好きな動物になりきってはい回ったり、電球がひらめいたみたいにこめかみをたたき、「アハー! ハハハ!」と叫んだりもする。

 カタリアは、あまり面白くなさそうなことにも、日常の中に笑いを持ち込むとよいと勧める。彼は「クレジットカードの請求書の笑い」を実演してみせた。明細書を見るふりをして、お腹の底から沸き立つような、つられ笑いを誘う声を上げた。ヒントが欲しければ、ラフター・ヨガ・インターナショナルが認定する全米の数十の無料オンラインクラブに参加するのも手だ。

 「本当に大事なのは無理やり笑うことではない」と彼は言う。「笑いの筋肉を起動させ、心の抑制や恥ずかしさを取り払うことだ。そうすると本当の笑いは、子供のような笑い、無条件の笑いになる」

By ALBERT STUMM

配信元: NewSphere

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