◆黒いセダンの恐怖

街灯がぽつぽつとしかない県道に入ったあたりで、バックミラーいっぱいに強烈なライトが映り込んだという。
「やけに飛ばしてる車だな……」
そう思ったのも束の間、どんどん車間を詰めてきたようだ。ミラー越しでも、相手の車のフロント部分がはっきりと見えるほどの近さだった。
「嫌な予感がしました。左右に車体を振るように近づいてきて、幅寄せするような動きまでしてきます。『なんなんだよ!』と声を出しつつもスピードは一定に保って、挑発には乗らないようにしました」
◆通報直後の逮捕劇
しかし、相手は急に右側から抜いてきて前に割り込み、わざとゆっくりと走った。ブレーキランプが何度も赤く灯るたびに、山田さんも慌てて減速したそうだ。
「手のひらが、汗でびっしょりでした」
信号待ちで横並びになった瞬間、危険だと判断。110番通報をすることに……。
「県道を南に向かって走っています。黒いセダンで、ナンバーは……」
必死に状況を説明した山田さんは、自分の声が震えているのがわかったという。
信号が青に変わると、相手は急加速。そして、窓から“何か”を投げつけた。カランという音とともに“空き缶”が道に転がった。
「当たらなかったけど、全身がびくっとしました」
数百メートル先、交差点の脇にはパトカーが止まっていた。通報を受けて待機していたようで、相手はその目の前で黄色信号を無理やり突破したが、結局は車を止められた。山田さんは、少し離れた場所に車を止めて、警察官に事情を説明した。
「さっきまで威圧的だった相手は、肩をすくめて視線を落としていましたね。恐怖は残っていましたが、“ざまぁみろ”って気持ちも同時にありました」
帰り道、窓から入ってくる夜風が妙に心地よく感じられたようだ。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。

