お互いに負担にならない「恩送り」という考え方

人付き合いを円滑にするために、もう一つ、坂東さんが心掛けているのが「恩送り」。受けた恩をその人に返すのではなく、できるときに別の人に返せばいいという考え方です。
「私が30代の頃、留学したアメリカでお世話になったのが当時70歳だったホストマザーのメアリーでした。手作りの料理をごちそうになり、息子さん家族やさまざまな人たちと出会えて、これがアメリカの草の根の暮らしなんだな、なんて親切なんだろうと感動することが多かったですね」
「1年たって帰国するとき、メアリーに『お世話になりっぱなしで何も恩返しできない』と言ったら、彼女が『私に恩を返さなくてもいい。いつかマリコの助けを必要とする人がいたら、そのときに助けてあげればいいのよ。それは私に恩返しするのと同じことなの』と言ったんです」
「素敵ですよね。恩を受けた相手にお返ししなければと思うと負担になるし、やりとりは二人の間で完結してしまいます。でも、できるときに別の人にどんどん恩を送っていけば、世の中がよくなっていく。
メアリーも『私が幸せに生活できるのは社会のいろいろな人たちのおかげ。一人一人に恩返しできないから、自分のやれることをやれるときにする』と言っていました。メアリーとは彼女が102歳で亡くなるまで交流が続いたんですよ」
「老後は大変」というのもまた思い込みの一つ

メアリーさんをはじめ先輩女性の生き方は、坂東さんの道標になっているといいます。
「私の祖母は二人とも72歳で亡くなっています。当時としては天寿をまっとうした感じでしたが、その娘世代である母は92歳まで長生きしました。
母は70代半ばから『親より長く生きてしまった』と戸惑い、72歳で孫が生まれたときも『この子が小学校に入るまで生きられるか……』なんて言っていましたが、結果的に成人式まで見ることができ、とても喜んでいました」
「そんな母を見ているので、私はまだまだ大丈夫だろうと勝手に思っていますが(笑)、やはり手本があることは大事ですね。そして高齢期を必要以上に悲観しないことだと思います。
介護や寝たきりを不安に思う気持ちもわかりますが、『老後は大変』というのもまた思い込みの一つ。元気に長生きしている人はいっぱいいるわけですから、私たちはそういう情報にもっと目を向けた方がいいんじゃないかなと思います」
『思い込みにとらわれない生き方』

1540円/ポプラ社刊
「思い込みがない」こそ、一番の思い込み! 家庭や職場、近所であなたを縛っている「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」から自由になり人間関係をすっきりさせる一冊。
取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部)、撮影=中西裕人
※この記事は、雑誌「ハルメク」2023年4月号を再編集しています。

