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「新幹線」の車内では、さまざまな人が乗り合わせるだけに、お互いに配慮することが重要だ。しかしながら、他人の“マナー違反”が目につくこともあるかもしれない。注意したくもなるが、相手が逆上してしまう可能性もあるため、その判断は難しいところである。

◆新幹線の車内で起きた小さな騒動
旅行会社の添乗員として、仙台の高校生の修学旅行に同行していた佐藤啓悟さん(仮名)。新幹線で新大阪から京都へ。たった15分ほどの区間だが、仙台から来た修学旅行生たちは車内の時間を楽しもうと窓の外を眺めたり、友達同士で語り合ったりしていた。
そんな賑やかな車内の一角で、ある“事件”が起きた。
通路を挟んで佐藤さんの反対側に座っていた中年のおじさんが、スマホで電話をしながら缶ビールを開け、おつまみを食べ始めたのだ。
声の大きさから電話で話している内容が周囲に筒抜けになっていた。手に持ったおつまみからは、カスがぽろぽろと床に落ちていく。
「さすが関西……」と思いながらも、佐藤さんは“学生たちが見ていますよ!”という視線を何度か送ったが、おじさんは通話に夢中で気づく様子はなかった。
◆マナー違反のおじさんに高校生が放った痛快な一言
その状況を見ていた佐藤さんの前に座っていたお調子者の男子生徒が、突然おじさんに近づいた。関西弁に馴染みのないはずの仙台の生徒だが、彼は完璧なイントネーションでこう言ったのだ。「おっちゃん、食べカスが床にぼろぼろ落ちとるで〜! 拾わなバチあたるで〜!」
車内の空気が凍りついた。しかし次の瞬間、あちこちから笑い声が起きた。周囲の乗客も振り返り、おじさんと同グループと思われる人からも「うまいこと言うなあ!」と声が上がる。
おじさんは「あ、ほんまや〜!」と驚いた声を上げ、慌てて缶ビールを置くと、床に落ちたカスを拾い始めた。おじさんは顔を赤らめつつも照れ笑いを浮かべ、「気ぃつけるわ!」と続ける。
生徒は間髪入れずに「頼んまっせ〜」と返し、車内は和やかな笑いに包まれた。
このやり取りがあったことで、忘れられない時間になったと佐藤さんは話す。
他人への注意は言い方が難しいものだが、あの生徒の言葉には不思議とカドがなく、状況を笑いに変える力があった。関西のおじさんも、どこか嬉しそうに見えたのが印象的だったとか。
京都駅に到着し降りる間際、おじさんはその生徒の方を振り返り、軽く手を挙げて「楽しみや」と笑顔で言う。生徒も笑顔で頷き、その光景を見ていた他の乗客までもが笑顔になっていたという。

