◆新幹線の車内で激しい口論に…

林田智さん(仮名)は、友人との別れを惜しみながら新幹線に乗り込んだ。
その日は空席が多く、車内はのんびりとした雰囲気。本でも読もうかと思っていた矢先、初老の男性が大きな声で携帯電話をかけ始めたのだ。
「静かな車内に男性の話し声が大きく響き渡り、周囲の乗客は誰もが不快そうな顔をしていました」と林田さんは振り返る。
そんな時、林田さんの後ろに座っていた若い男性が突然、声を荒げた。
「おい、うるせーな!」
通話中の男性は咄嗟に電話を切り、その場で相手を睨みつけた。
「なんだお前!」
「うるさいんだよ!」
口論が始まると、車内の空気はピリピリと緊張感を増していった……。
◆「俺はヤクザだ」脅迫してきた男性の末路
林田さんも我慢できなくなり、電話していた男に向かって声を荒げてしまったという。「大声出すな!」
すると、その男は急にこう言い放った。
「俺はX組のヤクザだ。新幹線を降りたら組員が待ってる。どうなっても知らんぞ!」
林田さんは、“ハッタリ”だと思った。もしも本当に彼が反社会勢力の一員だとしても、このような小さな騒ぎに組が動くとは考えにくい。
そもそも一般人を相手に暴力団の名前を出すのは、明らかに脅迫行為にあたる。
そこで林田さんは冷静に返した。
「それは脅迫罪ですよ」
男はその言葉に驚いた様子で言葉を失った。周囲の乗客も林田さんたちのやり取りに注目していた。
次第に林田さんたちに加勢する乗客が現れ、男を取り囲むような状態となったのだ。
「それでも男は引き下がらず、怒鳴り返してきました。このままでは埒が明かないので、乗務員を呼びにいくことにしました」
事情を話すと、すぐに本部まで報告するという。まさか、ここまでの事態になるとは……。
「やがて次の駅に到着すると、ホームから駅員たちが慌てた様子で駆け込んできました。男は渋々ながらも連行されていきました。駅員たちが車内をまわって、暴力を振るわれていないか、乗客たちに声をかけていました。
毅然とした対応と細やかな気配りに乗客の誰もが安心感を覚え、感謝の気持ちを抱かずにはいられませんでしたね」
新幹線の車内で何かあれば、乗務員に伝えるのがいちばんだ。
<文/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo

