◆◆インフラが崩壊する地方を救う

井口:一番やりたいのは、限界集落の「電力問題」の解決です。
水野:電力ですか?
井口:ええ。僕の地元のような山間部では、今、深刻な問題が起きています。人口が減って手入れされなくなった山では、木が伸び放題になって電線に覆いかぶさっているんです。だから台風が来るとすぐに木が倒れて停電してしまう。
これを維持・管理するのは、もうコスト的に不可能です。倒木処理の特殊伐採だけで何十万円もかかりますから。
電力会社も、数軒しか住んでいない集落のために莫大な維持費をかけ続けるのは限界でしょう。
水野:インフラが維持できなくなってきているんですね。
井口:そうです。電気が止まれば、水道も止まる(ポンプが動かないから)。そうなれば、人はもうそこに住めません。
だから僕は、「電線を使わずに電気を供給する仕組み」を作りたいんです。
例えば、水素を使った自家発電システムを各家庭や集落単位で導入する。いわゆるオフグリッドです。
これが実現できれば、電線が切れても生活できます。「min•naka」の物流網と合わせて、インフラが崩壊しつつある地方でも人が住み続けられる環境を作りたい。これは事業というより、僕のライフワークに近いですね。
水野:非常にスケールの大きな話です。
井口:もう一つは、日本の「規制緩和」です。今の日本は規制だらけで、国際的な競争力を完全に失っています。
なぜこんなに規制が増えるかというと、官僚の評価システムが「新しい法律や通達を作ること」になっているからです。
役人は規制を作れば出世する。だからわけのわからないルールが無限に増えていく。安倍政権の頃は政治主導で抑え込んでいましたが、今はまた官僚主導に戻ってしまいました。
これを一度リセットしないと、日本は本当に立ち行かなくなる。政治家になるつもりはありませんが、今の自民党に対抗できるような、しがらみのない政治勢力の受け皿を作る必要はあると感じています。
水野:井口社長のビジネスは、常に「社会への怒り」が原動力になっているように感じます。コンビニも、電力も、規制も。
井口:そうかもしれません。文句を言うだけなら誰でもできますから、僕はビジネスという形にして「ほら、変えられるだろう」と証明したいんです。
水野:井口社長はオンラインサロンも運営されていますが、そこでも厳しく指導されているとか。最後に、これから起業を目指す人たちへメッセージをお願いします。
井口:ズバリ、「あまり考えずに起業するな」と伝えたいですね。最近はSNSでバズって勘違いしてしまう人が多いですが、そんなものは一過性です。起業して9割が失敗するのは、事業計画をしっかり作らないから。
僕のサロンでは、相談に来た人の事業計画を見て「それは無理だからやめたほうがいい」とはっきり言います。計画を立ててみて、「あ、これでは食えないな」と気づくことが大事なんです。
自分のやりたいことをやるのは素晴らしいですが、その前にやるべき準備はたくさんあります。勢いだけで人生を棒に振るようなことはしてほしくないですね。
【プロフィール】
井口智明(いぐち・ともあき)

1974年生まれ、長野県木曽郡出身。株式会社ディアローグホールディングス代表取締役。福井大学工学部を卒業後、株式会社熊谷組、横浜市役所勤務を経て2005年に独立。設計事務所、美容室、保育園、障がい者グループホーム、コスメ開発など多岐にわたる事業を展開。現在は、こども食堂を併設した次世代コンビニ「min•naka(真中商店)」の運営に注力している。YouTubeの人気投資番組『令和の虎』では、志願者として出演後に“虎”となり、視聴者人気投票で1位を獲得するなど番組の中心的存在として活躍中。
<取材・構成/水野俊哉・高橋真以>
【水野俊哉】
1973年生まれ。作家、出版プロデューサー、経営コンサルタント、富裕層専門コンサルタント。ベンチャー起業家、経営コンサルタントとして数多くのベンチャー企業経営に関わりながら、世界中の成功本やビジネス書を読破。近年は富裕層の思考法やライフスタイル、成功法則を広めるべく執筆活動をしている。現在は自ら立ち上げた出版社2社や文化人タレントプロダクション、飲食業のオーナー業の傍ら、執筆やコンサルティング、出版プロデュース業を営んでいる。国内外問わず富裕層の実態に詳しく、富裕層を相手に単にビジネスにとどまらない、個人の真に豊かな人生をみすえたコンサルティング・プロデュースには定評がある。 著書はシリーズ10万部突破のベストセラーとなった『成功本50冊「勝ち抜け」案内』(光文社)など27冊、累計40万部を突破。最新刊に『成功する人は、なぜリッツ・カールトンで打ち合わせするのか?~あなたを超一流にする40の絶対ルール~』(サンライズパブリッシング)がある。

