日本特有の「死者との向き合い方」とは?

実にさまざまな国からご遺体を搬送してきました。そこで感じるのは、死者との向き合い方は国によって全然違うということ。
前回もお話したように、日本人はご遺体やご遺骨、形あるものを大事にします。ご遺体を前にしたとき、その手に触れたり、髪をなでたりするのは日本人特有の行動で、欧米の人はあまりご遺体に触れようとはしません。
以前、父と息子の親子二人旅で、父が現地で亡くなるということがありました。日本から妻と娘さん、そして亡くなった父の母(息子さんにとっては祖母)の3人が駆け付けてきました。
当初、ご遺体に防腐処理をして日本に連れ帰って、日本で葬儀をする予定だったのですが、お祖母さんが「体に薬剤を入れて防腐処理をするなんてかわいそう。この地で火葬した方がいい」と泣いて訴えるのです。でも、日本のように、ご遺骨として形を残すように火葬にする、というのは、実は世界的には特殊な文化で、海外で同じようにすることは難しいのです。
なので私は「おそらく、この地で荼毘(だび)に付したら、さらさらの灰になってしまうでしょう。一度、灰になってしまえば元には戻せないのですよ」と話しました。すると中学生の息子さんが「やっぱりお父さんと一緒に帰国して、日本で荼毘に付してお葬式をしたい」と。お祖母さんもその言葉に納得されて、日本へご遺体を送ることが叶いました。
現地の葬儀社に日本の「弔い」を交渉することも
2011年、ニュージーランドのクライストチャーチで大地震が起きたときには、私たちも現地に入って、特に損傷が大きく、どんなに手を施してもご遺体として日本に連れ帰ることのできない方を十数人担当しました。
本来私たちの仕事はご遺体の搬送であって、葬儀にまつわることは範疇ではないのですが、そのときは、現地の火葬場や葬儀社と交渉して、火葬炉の温度調整をしてもらったり、教会を借りるなどして、その場でお骨上げの儀式ができるように手配しました。
さらさらの遺灰が遺されるのと、日本ならではの「収骨をする」という行為ができるのとでは、ご遺族の気持ちが違うだろうと考えたからです。
悲しみのあまり、娘さんのお骨を前に泣き崩れるお母さんもいました。私はその方の背中をさすって「ここまで迎えに来たんじゃない。連れて帰りましょう」と言って一緒に収骨しました。
ずいぶんたってその方から「あのときのことは忘れられない。寄り添ってもらったおかげで娘を連れ帰れて本当によかった」という長いお手紙をいただきました。
普段から、自分が日本人だと意識している人は少ないかもしれません。でも死を悼むときにこそ、これまで自分の中に無意識に培われてきた文化や死生観が、死という最大の悲しみを受け入れられるようにしてくれます。それが「弔う」ということではないかと思います。
今、どんどん葬儀がビジネス化していますが、少なくとも私たちは、異国の地で亡くなった方をビジネスではなく、心から弔えるように、ご遺族が悲しみつくし、死者を悼む場をつくりたい――そうすることで亡くなられた方の尊厳も守られると思うのです。
取材・文=岡島文乃(ハルメク編集部)
※この記事は、雑誌「ハルメク」2025年4月号を再編集しています。
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