◆朗らかな老夫婦。裏では娘がはけ口に
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「80歳近い両親と3人暮らし。実家は家族経営の食堂で私もそこで働いているから、両親とは四六時中顔を突き合わせていますが、喧嘩が絶えず、もう地獄です。週6日、朝9時から夜9時まで働いて手当は週3万円です……」
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「妹は我が強くて、自分のやりたいことを貫くタイプ。父も母もそんな彼女に口出しできず、進学時は学費を惜しみませんでした。一方、私は両親から褒められた記憶すらありませんし、高校を卒業した時には、当然のように家業を手伝う流れになっていました」
それでも一度は結婚し、25歳で実家を出たという後藤さん。正社員として働き口も見つかった。
「だけど、数年後に夫がよそで子供をつくり離婚。彼が浮気した理由はわかりませんが、たぶん、私が美人じゃないからかな。だって、父から『ブスが気色悪いから化粧するな』と言われてきて。妹は小学校の頃から化粧するませた子だったんですけどね……」
結局、母から人手が足りないから戻ってほしいと請われ、後藤さんは実家に出戻った。
「長く客商売をしてきた両親は外面がよく、近所の愛されキャラ。でも実際は、父は仕事で嫌なことがあるとキッチンで私に暴言を吐くし、物を投げて当たり散らす。母もそれを見て見ぬふり。たまに会う妹に愚痴を言っても『また親の悪口?』と相手にしてもらえず、孤独です」
食堂を営む朗らかな老夫婦と、海外で暮らす優秀な妹。そんな理想的に見える家族の内側で、“毒家族”の構造に組み込まれた「子供部屋おばさん」が、一人静かに、はけ口となっていたのだ。
◆「長女は標的になりやすい」毒家族が生まれるワケ
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そう解説するのは、ジェンダー論にも詳しい哲学者の萱野稔人氏だ。
「毒親に共通しているのは、強い支配欲です。外では“いい人”を演じながらも、家庭内は自身の不全感を紛らわすために、子供を思い通りに支配して家に縛りつけておきたいという欲求があるのです。親から否定的な言葉や過干渉を受けているうちに、子供は自己肯定感を失っていく。やがて自分の思考を放棄し、一人で暮らすという発想すら持てなくなるケースも。また、毒親は子供の中でも、反抗的ではない子供を標的にする傾向があるため、きょうだいの中でも扱いに差が出てしまうことも珍しくありません」
かくして毒親のいる家庭では、兄弟・姉妹の中で役割の偏りが生じ、それが当たり前となっていく。そうして、閉鎖された空間で「毒家族」はつくられていくのだ。
「その中でも、娘、とりわけ長女は親の顔色を敏感に察知する傾向にあるのでターゲットになりやすい。加えて、『女の子は家のことをするもの』という性別役割分業の考えも、娘を家から出さない口実となってしまいます」
中高年の引きこもりや弱者男性が話題となる昨今。だが、家族のケアを担いながらも、語られることの少なかった「子供部屋おばさん」もまた、人知れず苦悩を募らせているのだ。
【哲学者・萱野稔人氏】
津田塾大学教授。専門は政治哲学。近年では、現代社会で生じるさまざまな問題を哲学的に考察する公共哲学の研究も進めている
取材・文/松嶋三郎 田中 慧(清談社)
―[[子供部屋おばさん]絶望の日常]―

