『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは『実にハムカツサンドらしいハムかつサンド弁当』。果たして、お味はいかに?
◆孤独のファイナル弁当 vol.10 「実にハムカツサンドらしいハムかつサンド弁当」
まい泉の小さい箱のヒレかつサンド(3切)が好きだ。小腹が減った時、量、大きさ、軽さが実にちょうどよい。たとえば音楽の録音でスタジオに6時間入るような時、途中の休憩、あるいは録音した音をミキシングルームで聞き返しながら、ちょいとつまんで食べるのにぴったり。
バンドでスタジオ入りしていたら、これが3~4箱あれば、メンバー各々が食べたい時に食べたいだけ食べればよい。食べ終わったら空箱をゴミ箱に捨てるだけ。生ごみが出ない。手も汚れない。食べ残ったら箱のまま持って帰れる。潰れず袋いらず。
もちろん仕事場にこもって仕事する時の軽食にもいい。パソコンに向かいながら片手で食べられる。
おいしさが大袈裟でなく、軽い感じがいい。「トンカツを食べている」という重さがない。片手でつまんで二口で食べられる。だけどやはり肉だから、
それなりの小さな満足感もある。差し入れにいただいても、心の負担がない値段(486円)。同じ箱で「エビかつサンド」もあって、こちらはあっさりしたおいしさ。ヒレかつサンドとソースも違うので、この2種類があると完璧。というわけで長年、重宝してきたのだが、最近「ハムかつサンド」があるのを発見した。しかもタイムサービスで10%オフの396円だった。買うしかない。
さっそく仕事場で食べた。小腹が空くのを待てない。どんな味か気になって我慢できない。仕事が始められん。
結果。一口食べて、ちょっと笑った。
ハムカツなんだから当たり前なんだけど、実にハムカツ。なんか拍子抜けするほどハムカツ。居酒屋にあったらちょいとB級、ちょいと駄菓子的な、あのハムカツなのだ。「まい泉オリジナルブランド豚『甘い誘惑』」と書いてあるが、ブランド感・誘惑感、ない。ハムは厚めなんだが何しろハムカツ、歯応えヤワヤワ。
ボクは居酒屋でハムカツをつまみにビールを飲むのが大好きだ。だから「拍子抜け」なんて悪口めいた書き方をしてるけど、おいしいんです。大好き。でもヒレかつサンドの小さな重厚さも、エビかつサンドの小さなシーフードグルメ感もない。それらが頭に残っている期待感から「あらら」となって笑ってしまったんだ。かわいい。ボーイズまい泉か、まい泉ジュニアって感じ。おいしいより楽しい。即戦力として他のふたつに加えよう。


―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi

