◆正月が近づくたび、気が重くなる帰省

大学進学を機に地元を離れ、現在は大阪のコンサルティング会社に勤めている。都会での生活が長く、仕事にも人間関係にも満足しているという。
「実家に着いた瞬間から、空気が重いんです」
家に入るなり、親から決まって投げられるのは、以下のような言葉だった。
「いつ地元に戻ってくるんだ」
「都会は冷たいやろ」
坂本さんにとっては、今の生活がすでに“居場所”になっている。しかし親の中では、「地元に戻らない=親不孝」という図式が出来上がっているようだった。
親戚が集まれば、その空気はいっそう濃くなるそうで……。
「地元に残って家業を継いでいる従兄弟は立派だ」
「都会に出たのに、まだ結婚もしていないのか」
笑顔で受け流しながらも、胸の奥が痛むという。とくに印象に残っているのが、叔母からのひと言だ。
「都会で何してるか知らんけど、結局は親を安心させるのが一番やで」
◆“都会での努力”は、地元では評価されない
坂本さんは、コンサルティングという仕事にやりがいを感じてきた。
「自分なりに考えて、ちゃんとキャリアを積み上げてきたつもりなんですよね」
しかし、その話は地元ではほとんど通じなかった。
「コンサルって、結局何してるん?」
「横文字ばっかりで、ようわからんわ」
悪気があるわけではないのはわかっているのだが、努力そのものを否定されているように感じてしまう。
「キャリアに対しても、『安定してへんやろ』『都会に流されてるだけちゃうか』と言われます。説明しても理解されないのはわかっているので、そのたびに言葉を飲み込んでいます」
帰省ラッシュの疲れが抜けないまま、説教のような会話が何日も続く。正月が終わる頃には、心も体もすっかり消耗していたという。
「帰省を終えて大阪に戻ると、ホッとします。やっぱり、ここが自分の場所なんだなって思います。正月より普段の平日のほうが、よっぽど自分らしいですね」
坂本さんにとって年末年始は、家族と過ごす時間であると同時に、自分で歩んできた人生に対して突きつけられる、少し苦い節目でもあった。
<取材・文/chimi86>
―[年末年始の憂鬱]―
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。

