
会社は、顧客や従業員、取引先などに関する個人情報を適切に管理する必要があります。万が一、従業員による持ち出しが発覚した場合、会社はどのような対応を迫られるのでしょうか。そこで、実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」へよせられた質問をもとに、元従業員による個人情報の持ち出しについて、林遥平弁護士が解説します。
元従業員が持ち出した個人情報を返還してもらいたい
宿泊施設を運営する会社の役員である相談者は、他支店の運営を任せていたマネージャーに対し、売上減少を理由に厳しく注意しました。マネージャーはその場では反省している様子でしたが、数日後、同僚とともに退職願を提出してきました。
当時、相談者としては店舗の経営状況が厳しく、このままマネージャーを任せておけば数ヵ月以内に経営が立ち行かなくなるおそれがあったため、本人から退職の申し出があったことについては一定の理解を示していました。
しかし、その後マネージャーが退職したのち、机の中を確認したところ、本人だけでなく過去に在籍していた従業員の履歴書や住民票など、個人情報が含まれる書類が持ち出されていることが判明しました。これらは業務上知り得た情報であり、マネージャーの立場であっても持ち出すことは認められません。
相談者は、元従業員に対し、法的に個人情報を返還させることができないかを検討しています。
そこで、ココナラ法律相談「法律Q&A」に次の2点について相談しました。
(1)元従業員が個人情報を持ち出した場合、会社はどのような法的措置を取れるのか。
(2)従業員による個人情報持ち出しに備え、会社が整えておくべき体制とは。
弁護士の回答
本件は、元従業員が業務上知り得た個人情報を不正に持ち出した事案であり、(1)会社が元従業員に対して取り得る法的請求、(2)会社が平時から整備すべき予防措置の二点が重要になります。
従業員による内部情報の持ち出しは、個人情報に限らず重大な企業リスクです。実際に筆者が担当した案件でも、その危険性を痛感する場面がありました。
「逮捕」に至るケースも…元従業員に個人情報を持ち出されたら
従業員が内部情報を退職後に持ち出す行為は、会社との間の秘密保持義務に反する可能性があります。退職後も義務を負わせるためには、就業規則の規定や入社時・退職時の誓約書といった契約上の根拠が不可欠です。これらが整備されていれば、会社は契約違反を理由として、情報の使用禁止・開示禁止、書類やデータの返還・削除、損害賠償の請求が可能となります。
さらに、会社が重要情報を適切に管理している場合には、それが不正競争防止法上の「営業秘密」として認められることがあります。実務では、営業秘密に該当するかどうかが、非常に大きな勝敗の分かれ目となります。
実際に筆者が担当した事案では、退職した元従業員が会社の秘密情報を持ち出して競業会社を設立し、その情報を事業に利用していました。会社側が秘密管理措置を適切に講じていたため、営業秘密侵害に基づき刑事告訴したところ、刑事事件として受理され、元従業員が逮捕されるに至りました。同時に提起した民事訴訟でも、持ち出し行為の違法性が認められ、一定額の損害賠償が認容されています。
こうした実例が示すように、営業秘密管理が適切であれば、会社は民事・刑事の双方で強力な手段を行使できます。
このように、元従業員による情報持ち出しが発覚した場合、秘密保持義務違反、営業秘密侵害を基礎として、差止請求や損害賠償請求の検討が可能です。企業は、平時から契約・規程の整備と秘密情報の管理体制を構築しておくことが、的確な法的対応につながるでしょう。
