ヘルパーに託された手紙の中身
さらに5年後。「お母様が亡くなりました」と連絡が入りました。電話の主は、母の家に通っていたヘルパー。葬儀を終えたあと、ヘルパーから一通の手紙を手渡されました。母が最期まで肌身離さず持っていたというその手紙を開封すると、そこには強烈な「意思表示」が記されていました。
「私には子どもが2人いますが、借金を抱え貧しい生活をさせてしまった。夫が亡くなってから少しでも親子関係を修復したいと働き続け、子どもに財産を託したいと願っていたが、最期まで叶うこともなく子どもに捨てられてしまった。私の死後、残った財産は最期まで日々の生活を支えてくれたヘルパーさんに全財産を渡したい」
「他人への遺贈」は認められるのか
Aさんは愕然としました。かつて貧乏だからと捨てた実家。しかし母は借金を完済し、財産を残していました。生前の同居の申し出は断ったAさんでしたが、いざ母が亡くなると「財産があるなら、法定相続人である自分がもらうべきだ」と主張します。海外の弟は相続放棄をしましたが、Aさんは納得がいきません。
「親は最期までなにもしてくれなかった」そう憤るAさんと、母の最期を看取ったヘルパー。ここにトラブルの火種が生まれました。
結果として、Aさんは母の財産をすべて相続することになります。
なぜなら、母が遺したのが法的な要件を満たした「遺言書」ではなく、単なる「手紙」だったからです。法的には、形式不備の遺言は無効です。また、生前にヘルパーと「死んだらあげる」という契約(死因贈与契約)を書面で交わしていたわけでもありませんでした。
皮肉なことに、母が最期に託した「ヘルパーに全財産を」という願いは、法的な知識がなかったために幻となり、実子であるAさんも、手紙の内容を知っていたヘルパーも複雑な思いをすることになってしまいました。
