
工事現場に騒音はつきもの。そんな世界の常識を覆した日本企業がある。騒音も振動もなく、巨大な杭を地中に押し込む画期的な技術。その実力は、東日本大震災の津波にも耐え、オランダの世界遺産を守る切り札として採用されるほど。田宮寛之氏の著書『日本人が知らない!! 世界シェアNo.1のすごい日本企業』(プレジデント社)より、世界シェア9割を誇る、「技研製作所」の独自のビジネスモデルを紐解いていく。
世界初の工法で「杭打ち機」世界シェア9割の「技研製作所」
会社データ
・本社……高知県高知市
・売上高……294億円
・純利益……24億円
・資本金……89億円
・創業年……1967年
・従業員数……698人
・上場市場……東証プライム(業績は2024年8月期)
高知県に本社を置く建設機械メーカーの技研製作所は、世界で初めて圧入原理を実用化した杭打ち機「油圧式杭圧入引抜機(サイレントパイラー)」開発し、その世界シェアは9割を超す。
従来の杭打ち機には騒音・振動が付きもので、トラブルのもとになることが多かったが、サイレントパイラーは油圧で杭を地中に押し込むので騒音・振動がほとんどない。静かに(サイレント)、杭(パイル)を押し込むことからサイレントパイラーとの名称になっている。同社では杭を「打つ」と言わず、「圧入する」という。
杭には用途や使用環境によってさまざまな形状や材質タイプがあり、構造物の基礎工事に使用される。杭を隙間なく並べて打てば、土砂を止める擁壁や水をせき止める止水壁といった土木構造物をつくることも可能だ。
騒音・振動で住民とトラブルばかり…創業者の発想の転換
創業者の北村精男(あきお)は高知県出身で、高校卒業後に高知県内の建設機械レンタル会社に就職。工事現場ではレンタルした建設機械の操作もしていたという。1967年に技研製作所の前身となる高知技研コンサルタントを創業し、土木事業を開始した。
高度経済成長の波に乗って事業は拡大したが、杭打ち機械による騒音・振動で現地住民とのトラブルが絶えず、工事が中断することもあった。静かな杭打ち機を国内外で探したものの実用的な機械が見つからず、北村は騒音・振動のない杭打ち機を自分で開発することを決意する。
北村は工事現場での経験から、いったん打ち込んだ杭を引き抜くには非常に大きな力が必要であることを知っていた。そこで、杭にまとわりつく地盤の引き抜き抵抗力を利用して別の杭を押し込むことを思いついた。
北村は、高知県内で機械修理業などを営む垣内商店(現・株式会社垣内)の創業者で高知のエジソンと呼ばれた垣内保夫に話を持ち込み、協力して1975年にサイレントパイラー1号機を完成させた。現在、株式会社垣内は技研製作所からサイレントパイラーの生産を請け負っている。
