いつまでも輝く女性に ranune
経歴詐称、ラブホ会合、セクハラ…“元市長”が斬る「2025年・市長騒動」の深層 市民感覚との乖離招く“権力の病理”とは

経歴詐称、ラブホ会合、セクハラ…“元市長”が斬る「2025年・市長騒動」の深層 市民感覚との乖離招く“権力の病理”とは

2025年は、「市長のトラブル」がメディアを大きく騒がせた。静岡県伊東市の田久保眞紀前市長は経歴詐称、群馬県前橋市の小川晶前市長は職員とのラブホテル会合が問題とされ、大問題となった。

他にも沖縄県南城市の古謝景春前市長が現職時にセクハラ行為が裁判で認定され、最終的に辞職勧告などから11月に失職するなど、連鎖的に市長の騒動が話題になる1年となった。

本来なら、品行方正、清廉潔白でなければならない自治体のトップがなぜ、相次ぐ騒動を自制につなげられず、逆に連鎖を呼び込んだのか…。

千葉県鎌ケ谷市で5期19年にわたって市長を務めた清水聖士氏。長期政権を経験したからこそわかる、市長という権力が宿すその「病理」について、忖度(そんたく)抜きに解説する。

市長室という名の「密室」

「権力は腐敗する」。歴史家、ジョン・アクトン卿の有名な言葉だ。その意味は〈権力者は堕落しやすい、特に絶対的な権力は絶対的に腐敗する〉というもの。

絶対的な権力には誰も逆らえない。だから周囲はイエスマンばかりになる。その結果、いよいよ誰も意見さえ言えなくなる。そうなれば、庶民感覚と乖離(かいり)していくのは必然であり、善悪の判断さえも麻痺(まひ)していく…。

約19年、市長の座に君臨した清水氏が明かす。

「市役所の市長室という場所は密室であり、一般市民は容易に入れません。市長室に入る手前には必ず秘書課という部署があり、必ずそこで足止めを食らいます。一部の幹部職員や議員は顔パスで入れる場合もありますが、それでも、一応秘書課職員の首実検は経ています。

この、容易に市民が入れない『密室』は、政策を考えたり、選挙対策を練ったりするには非常に適しています。一方で、そこにばかり居続けると、世の中のことが肌感覚でわからなくなり、いわゆる市民感覚や市民の常識というものが失われることになります。

市長室から出て多くの市民と対話すれば、市民が何を求めているかを肌で感じられますが、市長室にこもって自分の頭の中だけで物事を判断すると、間違った判断が生まれることになります」

業務委託契約を結んだ専属運転手の女性にセクハラした揚げ句、個人情報を市議会本会議で暴露。大学を卒業していないのに、「卒業した」と‟公表”。男女の関係の有無はともかく、市長という立場にある人間がラブホテルで異性職員と会合ーー。

一般常識以前に、一市民感覚で、社会と接点を持っていれば、「これはマズイ」とすぐにわかりそうなことでさえ認識できない。複数の市長が同じような時期に、トラブルに見舞われたのは、単なる偶然だったのか…。

沖縄県南城市市長は法廷でセクハラ認定を受けた(karof4i / PIXTA)

古謝氏は結局、被害女性から提訴され、2024年3月の一審判決で、セクハラ行為が認定される。2024年11月の控訴審も一審判決を支持。改めてセクハラが認められたが、同氏は市議会解散を選択した末、反対派の当選多数で、最後は失職に追い込まれた。

相次ぐ市長の不祥事に、清水氏は次のように苦言を呈する。

「田久保前市長は、経歴詐称が言われた当初に多くの市民と対話していれば、もっと違った対応をとることができたのではないでしょうか。小川前市長にしても市民感覚が備わっていれば、『ラブホテルに入るところを見られたら市民がどう思うか』という点に思いをいたすことができたはずです。

2人がどれほど市長室にこもっていたのかはわかりませんが、市長室という場所の閉鎖性は、時に市長の判断にマイナスの作用をもたらすので、十分に注意する必要があります」

経歴詐称疑惑、なぜあれほどこじれた?

古謝氏は法の裁きを受け、2人の前市長は騒動を抑え込めず、炎上。こじれる前に、なんらかの打ち手はなかったのか…。

「まず田久保氏ですが、特に市長選挙初挑戦の市長候補は、少しでも自分の経歴を立派に見せようと考えるものではあります。経歴は有権者の投票行動に大きく影響する要素であり、1票の差で次点になることもあるからです。ただ、明らかに見破られるウソを経歴に書いてはいけません。卒業していない大学を卒業したと書くのはあまりに愚かです。

私も初出馬の時、チラシには在インド日本大使館の『一等書記官』と書いてしまいました。外務省の公式の人事録は『二等書記官』となっていますので、‟盛った”ことにはなります。外務省のローカルランクという制度では問題ないので『虚偽』とまでは言えなかったのですが、当然、最初の市議会では厳しく追及されました。

経歴詐称で一番重要とされているのは、選挙公示後に選管が発行する『選挙公報』。田久保前市長はそこには何ら経歴を書いていなかったわけですから、うまくすれば経歴詐称疑惑からは逃げ切れる可能性があったと思います。

アドバイス役の弁護士があまり選挙に詳しくなかったのかもしれません。ニセの卒業証書のチラ見せや、議会と真摯(しんし)に向き合わないなどの行動の積み重ねで、事態を悪い方向に導いてしまった…。

逆に言えば、この初動対応で議会に対して『大学は出ていないので選挙公報には学歴は記載していない。混乱を生じさせたことについては素直にお詫びします』と言っていれば、事態は変わっていたかもしれません」

前橋市・小川晶氏の出直し出馬と当選可能性

小川氏はどうなのか。

なぜ異性との会合の場をラブホテルにしたのか…(公式facebookより)

「もし小川前市長がウソをついておらず、ラブホテルで幹部職員にいろいろ相談に乗ってもらっただけという点が事実だったとすれば、『日々の市政運営が大変で、神経をすり減らすような状況で、相談の最中にも泣いたりわめいたりしてしまうので、市長室では目立ちすぎる』という言い訳も100%否定できるものではありません。

私も1期目や2期目の頃は眠れない日が続き、信頼できる職員に相談に乗ってもらったことがありました。ただ、それはすべて市役所の市長室で行いました。小川前市長が相談の場をラブホテルにしたのであれば、それは軽率の極みです。

私も市長在任中に‟隠密行動”をとったことはありますが、その際は、盗聴されていないか、尾行がついていないか等、慎重の上にも慎重を期したものです。まして今回、相手の職員は異性だったわけですし、小川氏はあまりに慎重さが足りなかった…。

しかし、辞任を表明してから出馬表明までの段取りとしては、12月14日に300名の市民が集まった集会が行われ、そこでその市民から再出馬を促されてそれに応じる、という形は非常に理に適ったものと思われます。

300名という数字もインパクトがあります。そういう支援者の集会を経ずに、単独で記者会見で出馬を表明するというパターンよりも誠実な印象を与え、今後の選挙にも弾みがつくと思われます」

市民から支持を獲得し続けるには

3人の騒動からわかるのは、トラブルの初期対応の重要性だ。

古謝氏は個人情報の一方的な公開などで被害女性の心証を悪化させた。田久保氏は真贋不明の卒業証書の「チラ見せ」で多くを敵に回した。小川氏は弁明のしようのない相談場所を選択し、その後、何度も利用してしまった…。

早い時点で火消しに成功すれば、ボヤで済むが、処置を誤れば大やけどを負う。自治体のトップに君臨するからこそ、ボヤでも最大限の消火作業を怠らない。

5期約19年。いきなり‟経歴詐称”騒動に巻き込まれながら、清水氏はどのようにして、市民から長期の支持を獲得し続けたのか。

「不祥事の予防策というわけではないのですが、一度、市民との会合に出た際に、『今は市役所職員800人の上司という立場ですが、では鎌ケ谷市内に私の上司はいないのかと言えば、ここにおられる市民の皆さんが私の上司です』と述べたことがあります。

市長は市民の負託を受けているわけですから、市民の意向を実現させることに全力を注がなければいけません。言わば、『市民が市長の上司』である、という考えを持つことが必要かと思います。

そのためには、できるだけ市民の中に入って行き、また、市民とのタウン・ミーティングもできる限り行ったほうがいい。

あとは優秀な参謀を持つことです。首長はある意味孤独ですから、立場を超えてしっかりと苦言を呈してくれるような右腕をキープしておく。これはとても重要です。3人にそうした人物がいたとは思えません」

混乱に拍車をかける地方自治法の‟欠陥”とは

自治体トップに君臨し、市政の舵をとる市長。その資質や人間性が重要な要素であることはいうまでもないが、清水氏は、それ以前に法的枠組みにも‟欠陥”があると指摘する。

「有権者による監視は非常に重要ですが、その市長をチェックするのは市議会の仕事です。市議会の最大の武器は『不信任決議』ですが、現行の地方自治法は、この伝家の宝刀の効力を減殺させることになっています。

伊東市でも南城市でも、市長の側の不祥事が原因で議会から不信任を突き付けられたにもかかわらず、市長が議会を解散してしまうという道理に合わない展開になりました。これは法制度の不備以外なにものでもありません。

市長の側の不祥事が原因で議会が不信任を決議した場合は、市長は軽々に議会を解散できないよう地方自治法を改正すべきです。

たとえば、市長の不祥事を追及する百条委員会において市長が訴追されているケースでは、解散権を制限するといった法改正を検討してはどうでしょうか。

また、田久保前市長が前回市長選で当選した際は、それまでの市長の政策に反対する市民団体が中心となって田久保氏を担いだとされています。市民団体がある候補者の応援を決定する際には、その候補の経歴にウソがないかどうか、選挙前の時点で厳しく確認しておくという段取りも必須でしょう。政党が推薦を決定する場合は、必要な書類を候補者に提出させ、かなり厳重な審査をすることが多いですが、それにならうのがいいのでは」

自治体トップによる、信任に値しない行動が目立った2025年。一連の混乱を招いた直接的な原因が当該市長にあることは明白だが、元市長・清水氏の「市民が市長の上司」という言葉を額面通りに受け取るなら、今後はどんな選挙でも、担ぐ側は候補擁立前に十分なリサーチを欠かさず、有権者は一票に思いを込める。それが、票を投じた首長の‟裏切り”に対する最大の予防策となるのかもしれない。

<清水聖士(しみず・きよし)>
1960年、広島県生まれ。麗澤大学客員教授。早稲田大学卒業後、伊藤忠商事、米ウォートンスクールMBAを経て、外務省へ。2002年、前市長逮捕により行われた鎌ケ谷市長選挙に選挙権もないままインドから落下傘候補として出馬。763票差という大激戦を制し、市長に就任。以来、5期19年にわたって同市市長、千葉県市長会会長も務める。2021年、任期途中で市長を辞し、衆院選に出馬するものの…。

配信元: 弁護士JP

あなたにおすすめ