
厚生労働省の統計によると、離婚そのものは2002年をピークに減少傾向にあるものの、そのうち婚姻期間が20年以上の「熟年離婚」は統計のある1947年以降で過去最高を更新し続けているそうです。熟年離婚が増えている背景はいったいなんなのか、朝日新聞取材班による著書『ルポ 熟年離婚』(朝日新聞出版)より、熟年離婚の現実とその背景を、事例を交えて紹介します。
収入ダウンで一気に崩壊…熟年離婚の決定打
役職定年になった夫から妻へ離婚を申し出たケースもある。金融機関で管理職を務めていた夫は57歳で役職定年となり、年収が3割ダウン。当時49歳の妻、子どもと高級マンションに住んでいた。
子どもは私立中学校や塾に通い、習い事も多数していて、将来は留学を考えていた。年収ダウンを機に、夫が家計を見直したところ、この生活レベルを維持すると、子どもの留学費用はもちろん、大学費用を出すのも難しいことがわかった。
そのため「このままでは老後はとてもやっていけないので、生活レベルを落として節約してほしい」「マンションも安いところに引っ越したい」と頼んだところ、妻は「収入が下がるのはあなたの努力不足、私には関係ない」と拒否し、夫を無視するようになったという。
夫は家を出て、弁護士に相談した。これ以上、一緒に暮らすのはつらいということで、妻と話し合い、夫が養育費と学費を支払うことで離婚が成立した。貯蓄は少なかったため、財産分与は残った貯金を分ける程度だったという。
これまでに2千件を超える離婚訴訟や夫婦トラブルを扱ってきた堀井弁護士はこう語る。「以前は夫の定年退職がきっかけで熟年離婚するケースが多かったが、最近はその前段階で増えている」50代以降、夫が役職定年を迎えることがきっかけで離婚話になるケースが目立っているという。
「バブル世代は年収がずっと右肩上がりだったのでそれを前提として消費行動をしてきましたが、50代に役職定年になるとガクンと年収が減る。会社の制度として理解していても、いざ現実として下がった給与の額を見ると驚き、過去の家計管理について配偶者を責めて離婚問題に発展する」
予防策としては、50代に入る前に「役職定年」を想定し、家計を見直し、夫婦で老後について話し合うことを提案する。
婚姻20年以上の離婚が急増…“熟年夫婦の破綻”が止まらないワケ
離婚件数と熟年離婚の比率 出典:人口動態統計
厚生労働省の統計によると、2023年の離婚件数は18万3,814組で、前年より4,715組増加した。離婚そのものは、02年の28万9,836組をピークに減少傾向にあるが、そのうち婚姻期間が20年以上の熟年離婚は3万9,810件と前年より増え、離婚率も23.5%と、統計のある1947年以降で過去最高を更新し続けている。
NPO法人・日本家族問題相談連盟理事長で公認心理士、離婚カウンセラーの岡野あつこさんは、「熟年夫婦の離婚相談は女性からが7~8割。要因で多いのは、夫のモラハラなどです」と語る。子育てが一段落したことも離婚を決断する要因となり、退職金や年金などの財産分与を考える場合、「夫の定年の2〜3年前から妻は準備に動きだす」という。
人生100年という長寿社会の影響もある。1950年ごろの男性の平均寿命は約60歳。定年後、夫はそれほど長く生きる存在ではなかったが、今や男性の平均寿命は81歳。子どもが独立した定年後、夫婦で過ごす時間が長くなった。
これまで日本の熟年夫婦のモデルは、夫は外で働いて生活費を稼ぎ、妻は子育てなど家庭を守るという役割分担をし、夫婦が一緒に行動し、密接につながることは稀で、愛情うんぬんより、経済的な関係という側面が強かったといえる
女性のエンパワーメント(自己決定能力)の高まりにより、「配偶者との価値観の違いや性格の不一致などを我慢せず、リセットしようとするケースが目立つ」とも指摘する。
妻側が離婚を切り出すのは、共稼ぎや実家からの遺産相続など経済的な自立のメドが立っている場合が多いという。
朝日新聞取材班
