
信託は、資産を所有する人のニーズの実現に向けて「継ぐ」「分ける」「まとめる」の3つの機能を活用し、資産の管理、運用、承継に柔軟に対応できます。今回は、信託の「分ける」機能について、地主の土地承継の事例から見ていきましょう。株式会社継志舎の代表取締役で、一般社団法人民事信託活用支援機構の理事を務める石脇俊司氏が解説します。
信託の「分ける」機能は、地主の土地承継に大きなメリット
信託は、資産を所有する人のニーズの実現に向けて、「継ぐ」「分ける」「まとめる」という3つの機能を活用し、資産の管理、運用、承継に柔軟に対応することができます。
前回の記事『認知症となった80代賃貸不動産オーナー、家族は預金を引き出せず…修繕遅れで物件価値が激減→一族全体の問題に! 高齢化社会における「家族信託」の重要性』では、信託の「継ぐ」機能を使った信託の事例を紹介し、不動産オーナーの資産承継ニーズにおける信託の活用法を解説してきました。
ここでは、信託の「分ける」機能の使い方について、地主の土地承継の事例を紹介しながら解説したいと思います。まさに信託ならではの使い方として「受益権を分ける信託」、いわゆる「受益権複層化信託」について見ていきます。
信託された不動産の権利ではなく、受益権を「分ける」
不動産の所有者は、不動産を「使用する」「収益を得る」「管理する」「処分する(単に売却というだけでなく、抵当権を設定することなども含めて)」といった権利一体を所有しています。
信託を利用すると、これらの権利を「分ける」ことができます。たとえば、高齢の親が所有する不動産を信託して、信託の受託者が「管理・処分する権利」を持って不動産を管理し、信託した親が受益者となって、引き続き不動産に関する「使用・収益権」を持つ、といったことがあげられます。
この「分ける」機能の創出は、信託ならではの仕組みであり、使い方を工夫することで、資産の管理・承継における資産所有者の独自のニーズに応えることができます。
さらに信託は、受益者がもつ「受益権」の内容も分けることができます。
たとえば、信託期間中に生じる不動産の地代や賃料などの収益を受け取る権利の「収益受益権」、信託が終了したときに信託財産そのものを受け取る権利の「元本受益権」といったように、異なる内容の受益権を創出し、その受益権を別の者に持たせることもできます。
このような権利の異なる2つの受益権がある信託を「受益権複層化信託」といいます。
この信託は、収益力のある財産を信託財産として、その財産を所有する不動産オーナーの固有のニーズに対応するべく使われています。
