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長期休暇シーズンに突入し、旅行や里帰りなど、「新幹線」に乗る機会もあるかもしれない。さまざまな人が乗り合わせるだけに、車内ではお互いに配慮することが重要だ。飲酒や撮影は、車内のルールとして禁止されてはいないものの、無遠慮に振る舞えばトラブルになりかねない。
◆自分の席なのに「どいて」と言われた乗客の違和感

「“ぬい撮り”したいので、一瞬そこどいてもらっていいですか? 窓枠にこの子たちを置いて撮りたいので」
いわゆる「推し」のぬいぐるみを窓際で撮影したいがために、他の乗客に席を立つよう求める——そんなマナー違反に光野さんは戸惑った。
その日、光野さんの隣に座ったのは、フワフワしたワンピースを着て髪を綺麗に巻いた女性だった。年齢は10代後半から20代前半に見える。大きなトートバッグとキャリーケースを持ち、バッグからはうちわやペンライトが見えていた。
うちわには「指ハートして!」という装飾がされており、ある男性グループのコンサートに向かう途中のようだった。
光野さんが駅弁を食べていると、隣席の女性も駅弁を取り出した。しかし、女性は食事をするのではなく、机上に多数のぬいぐるみとアクリルスタンドを並べ始めた。推しのグッズたちと駅弁を一緒に写真撮影し、ぬいぐるみを持って自撮りする姿に、光野さんは少し違和感を覚えた。
とはいえ、「パシャパシャ鳴るカメラ音が気になるものの、迷惑をかけられたわけでもないから」と光野さんは気にしないようにしていた。それどころか、相手が自撮りしている際には、うつりこまないように配慮して端に寄るなどしてあげたという。
◆理解不能な態度
だが、食事を終えた女性は、窓側に座っていた光野さんに対し、“ぬい撮り”のために席を立つよう要求してきたのだ。しかも、その態度は……。「申し訳なさそうに『すみませんが写真を撮りたくて……』とお願いするならまだしも、私が席を立つのは当然のような感じでした」
光野さんは、断った後も隣同士で座らなければならないことを考慮して、要求に応じることにした。しかし、心中では大きな不満が渦巻いていた。
「見ず知らずの人に席を立ってくれと言える神経も理解できないし、そんなに景色と“ぬい撮り”したいなら事前に予約すれば窓側の席が取れるのに」
最近は「推し活」や「ぬい活」を楽しむ人が増えているが、光野さんは「公共の場ではマナーを守って楽しんでほしいです。その『推し』のイメージもなんだか悪くなってしまいます」と話す。

