
一見すると「仲良し親子」のように思えても、Z世代とその親との密接な関係の裏には「毒親」や「共依存」といった根深い問題が潜んでいる場合があります。本稿では、牛窪恵氏の著書『Z世代の頭の中』(日本経済新聞出版)より、Z世代における複雑な親子関係について、詳しく解説します。
「毒親」と「共依存」がつくる、危うい親子仲
典型的な「仲良し親子」に思えるリクさんとその母親。ですが深く話を聞くと、彼は子ども時代から、母親の度重なる干渉、たとえば習い事(水泳とサッカー)や中学〜大学選び、親子就活などを経験しており、インタビューの中でも「僕の好みは関係なくて」や「それ(母親主導)が普通」「昔からそうだった」などと口にしました。
見ようによっては、彼の母親は「過干渉」と言えるでしょう。
ほかにも、今回のインタビュー調査では、「『これからは女の子も、東大か京大を出ないと』って、母親にひたすら勉強させられた」と話すサクラさん(広告代理店)のほか、「中学も高校も、いつの間にかママに決められてた」(ヒナさん/損保会社)や、「行きたくなかったプログラミング教室に毎週、母親にクルマで『強制連行』された」(カイトさん/家電メーカー)、など、意に染まない教育や習い事を強いたり、「教育虐待」に近い母親の様子を、口にしたZ世代も少なくありませんでした。
こうした傾向が度を越すと、近年では「毒親」と呼ばれることもあります。
文字通り「『毒』のような悪影響を子に及ぼす親」の意味で、元々は89年、アメリカのセラピスト(スーザン・フォワード氏)が広めた言葉です。日本で流行したのは、14、15年以降で、後述する「(親子)共依存」が話題になったころと重複しています。
18年、自身の論文で「毒親」を4タイプに分類したのが、精神科医の斎藤学氏。
その4分類が、
(1)過干渉、統制型の親
(2)無視親(含・ネグレクト=育児放棄)
(3)ケダモノのような親(含・暴力、暴言、性的虐待)
(4)病気の親(含・精神障害)
です(『Webマガジン「みらい」VOL.2』(日立財団)「毒親と子どもたち」)。先のリクさんやカイトさんらの母親は、まさに(1)「過干渉」に分類されるケースかもしれません。一方の「共依存」は、「相手に自分を頼らせることで相手を支配しようとする人(A)と、その人に頼ることでその人の自由を奪おうとする人(B)との間に成り立つ関係」と言われます。親子の間では、圧倒的にAが親、Bが子であることが多いようです。
「僕が大人になったらママが悲しむ」
15年、「尾木ママ」こと法政大学の尾木直樹名誉教授(教育評論家)は、『親子共依存』(ポプラ新書)を出版し、仲が良すぎて子の自立を妨げる親子関係の危うさに警鐘を鳴らすとともに、「中学2年生の男子(当時)の2割が、いまだに母親と一緒にお風呂に入っている」とのデータを提示しました。
私自身も、「草食系男子」に関する拙著の出版(08年)を機に、同じく「ママとお風呂」に入る男子をたびたびマスコミで紹介しました。もっとも、当初は「中学生の男子が、なぜ母親とお風呂に入るのだろう」と不思議だったのも事実です。
そこで取材中、「恥ずかしくない?」と聞くと、彼らの何人かはこう口にしたのです。
「恥ずかしいとか、関係ない。お風呂で喋るとお母さん、めっちゃ笑顔になってくれるし」
「ママの裸? なんとも思わないですよ。それに万が一、下半身が反応したりしたら、『(僕が)ああ、大人になっちゃった』って、ママが悲しむじゃないですか」
そんな声を受けて、精神科医で医学博士の斎藤環氏は、私に教えてくれたのです。
「彼ら子どもたちは、親にただ甘えているのではない。親を喜ばせようとしたり、(親が悲しまないように)気をつかって甘えたりしているんです」
このころの中高生がまた、おもにゆとり世代とZ世代でしょう。
