「パラサイト・シングル」が増えた理由
一見すると、「仲良し」や「甘えすぎ」に見える、仲良し親子。ですがその背後には、複雑な人間関係が隠れています。同時に、彼ら自身のせいだけでなく、経済や社会に翻弄され、親子が密着せざるを得ないケースもあるのです。
それを象徴するキーワードが、「パラサイト・シングル」。中央大学・山田昌弘教授が、99年出版の著書(『パラサイト・シングルの時代』/ちくま新書)を通じて広めた言葉で、「大学卒業後もなお、親と同居を続ける独身(未婚)者」を指す言葉です。
当時(90年代後半)、「親に甘えている」「20代半ば〜後半を過ぎて、まだ実家に住み続けている」など揶揄されたのが、おもに団塊ジュニア、すなわちZ世代の親の一部でした。
80年時点で20~34歳の人口全体に占める「親同居未婚者」の割合は、男性で3割強(32.9%)、女性で3割弱(26.1%)でしたが、15年後の95年にはそれぞれ1割以上増え、男女共に4割を超えるように(男性44.2%/女性41.1%)。若年の未婚者(18〜34歳)だけに絞ると、当然ながらその割合はさらに多く、92年時点で未婚男性の6割強(62.8%)、未婚女性の8割弱(76.7%)が親と同居するようになっていたのです(16年総務省(西文彦)「親と同居の未婚者の最近の状況」ほか)。
私自身、04年から2年間かけて、Z世代の親世代にもあたる団塊ジュニアの娘と、さらにその親世代の「団塊世代(46〜51年生まれ/現74〜79歳)」にあたる母親の、200組・400人にインタビュー調査を繰り返しました。積水ハウスと弊社の2社で、団塊ジュニアのパラサイト女性と親が、共に暮らしやすい住まいを開発するのが目的でした。
同時にこのころ(04年)、ほかの企業とも海外のパラサイト事情を調べ始めたのですが……、そのとき、日本だけでなく海外でもパラサイトが増える背景には、若者を巡る厳しい経済事情や社会環境があることを知ったのです。
日本、アメリカ、韓国…なぜ、世界中で「実家から出られない若者」が増え続けるのか?
たとえば米国では、80年代前半(失業率が約10%にまで伸長)と02年(01年に同時多発テロ)以降に、いずれも「親同居未婚者」が右肩上がりで増えていました(Census Bureau〈米国国勢調査局〉公開値ほか)。米国といえば、大学入学時に入寮して自宅を出ていくのが一般的なのに、不況や社会不安が高まると、親元に居続けたり一旦実家を出ても再び戻ってきたりする若者、すなわち「Boomerang Generation(ブーメラン世代)」が、顕在化する傾向にあったのです。
23年時点で、米国の未婚男女(18〜24歳)における「実家住まい割合」は、男性で6割弱、女性で5割強と、いずれも5割を超えています。それでも日本に比べれば少ないのですが、近年は子どもに過度に干渉する親が増えているとの指摘も。その象徴が、「Helicopter parent(ヘリコプターペアレント)」、すなわち高校生以上の子どもに対し、まるでヘリコプターのように周りを旋回しながら干渉を加える親の存在でしょう。
また、お隣の国・韓国でも、90年代後半と08〜09年にかけて「通貨危機」が起こり、「カンガルー族(日本のパラサイト・シングルとほぼ同義)」という言葉が広がっていました。韓国のニュースチャンネル「YTN」の報道によれば、85〜10年までの25年間で、未婚男女(25歳以上)が親と同居する世帯が、約3倍にも増えていたというのです(16年2月16日放映)。
牛窪 恵
世代・トレンド評論家
