有料会員数は3億人を突破し、テレビや映画を押しのけて、もはや映像業界で最大のインフラと化しているネットフリックス。そのなかで日本作品が世界で注目される流れをつくったドラマといえば『全裸監督』だろう。この作品を手掛けたのが、東京大学理学部卒のプロデューサー・たちばな やすひと氏だ。

◆不安の中で武器にした理系的な方法論
「小さい頃から算数は100点だけど、国語とか美術は30点みたいな偏りがある人間でした。絵も下手。芸術的な才能はないんだけど、それでも表現することには憧れがあって。文系に憧れる理系という感じでしたね」その言葉通りか、新卒で入ったインターネット系の会社からテレビドラマの制作会社に転職することになる。28歳にして、一番下のADからの出発だった。果たしてやっていけるかという不安の中で武器にしたのが理系的な方法論だったという。
「スタートが遅かったので、周りとの差を知識やロジックで埋めようと、自分なりにハリウッドの脚本術や演出について書かれた本を読み漁ったんです。もちろん、最初は生半可な知識は通用しなくて、“考えるより動け”って感じなんですけど、現場で揉まれているうちに、それぞれの領域でノウハウやメソッドはあるなと気づいていきました。
実際、プロフェッショナルな人ほど言語化して自分なりの体系化があるんですよね。そのことに励まされて自分なりのシナリオメソッドを追求するようになりました。才能や感性では勝てない。でも、理屈の世界だとしたら、理系の自分の領土でもある。だからこそ、みんなが理解できる方法論を確立する必要があったんです」

◆人は全く違う「面白い」を欲しがっている
そもそも「面白い」という言葉は、使う人によって意味が全く違う。日本語の「面白い」には「笑える」「興味深い」「刺激的」など、さまざまなニュアンスが含まれているからだ。たちばな氏が制作現場で困ったのも、まさにこの点だった。「会議で『これ面白いよね』って言っても、人によって全然違うものを指しているんです。ある人はハラハラドキドキする興奮を、別の人は考えさせられる深みを、また別の人は笑えることを求めている。みんな『面白い』という同じ言葉を使っているのに、実は全く違うものを欲しがっているんですよね」
そうした「面白さ」が持つさまざまなニュアンスを紐解いていくと、それぞれの人が求める「欲求」の段階との密接な繋がりに気づいたのだという。

