実務でよくある“所在不明相続人”のパターン
「行方不明の相続人」といっても、中身はさまざまです。どのパターンに該当するかによって、取れる手段も変わってきます。
パターン①:戸籍上の追跡が難しいケース
戸籍は保存期間が長期で、通常は本籍地の移動や改製があっても、しっかりと辿れるように制度設計されています。そのため、「戸籍が古いから追えない」という意味で完全に行方が途絶えてしまうケースは、実務上そう多いものではありません。
しかし、例外的に、
●被相続人の出生地が北方領土である
●元は外国籍で、日本に帰化してから戸籍が編成されている
といった事情があると、戸籍や身分関係の追跡に専門的な検討が必要となり、相続人調査の難易度が一段上がることがあります。
また、戸籍そのものは追えていたとしても、
●本籍が何度も転籍している
●婚姻・離婚・養子縁組などで氏名が複数回変わっている
といったケースでは、専門家ではない方が「どこまで揃えば完全なのか」「本当に相続人はこの人たちだけなのか」を判断するのが極めて難しいのが実情です。
戸籍の取り寄せを中途半端なところで止めてしまい、「実はほかに相続人がいた」「認知した子が残っていた」という事実があとから発覚すると、不動産売却や相続手続き全体が振り出しに戻ることにもなりかねません。
パターン②:海外在住・いわゆる「海外に逃げた」ケース
相続人が若い頃に海外へ移住し、そのまま現地で結婚・就職している場合や、ビジネスや個人的な事情から「海外に逃げた」といわれるケースもあります。
この場合、
●住んでいる国はなんとなくわかるが、正確な住所がわからない
●連絡先はSNSだけで、メッセージを送っても反応がない
●現地の配偶者を介してしか連絡できず、言語の壁もある
といった要素が重なり、実務上は国内の所在不明相続人以上に対応が難航することが少なくありません。
パターン③:住所はわかるが「連絡拒否・協力拒否」のケース
住所も電話番号もわかっており、戸籍上も相続人であることは間違いないのですが、それにもかかわらず、
●電話に出ない、折り返しもない
●手紙や内容証明郵便を送っても返事がない
といった対応で、「自分は関係ない」「勝手にやってくれ」とばかりに、一切応じない「協力拒否」タイプの相続人もいます。
厳密には「所在不明相続人」ではありませんが、結果的に遺産分割協議が進まず、行方不明相続人と同様の問題を引き起こします。
法律上の解決策…不在者財産管理人の選任・調停・新制度活用
それでは、こうした所在不明・行方不明相続人がいる場合、どのような法的手段があるのでしょうか。代表的なものを整理します。
①不在者財産管理人の選任
相続人の住所や居所がわからず、連絡も取れない場合、家庭裁判所に申し立てをして「不在者財産管理人」を選任してもらう方法があります。
不在者財産管理人は、行方不明となっている相続人に代わって財産を管理する人で、多くの場合は弁護士などの専門職が選任されます。
この管理人が、行方不明相続人の立場を代弁する形で遺産分割協議に参加したり、不動産売却に必要な手続を進めていくことにより、相続人全員の意思がそろわなくても、一定の範囲で手続きを前に進めることが可能になります。
もっとも、
●家庭裁判所への申立て
●管理人の選任・報酬に関する費用
●不動産売却の許可申立て
等を行うにはそれなりの時間とコストを要するため、簡単に使える「魔法のカード」ではありません。
②遺産分割調停・審判、共有物分割訴訟
所在は分かっているものの、協議に応じない相続人がいる場合には、
1. 家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる
2. 調停で話し合いがまとまらなければ、審判(裁判所による判断)へ移行する
という流れが基本になります。
また、どうしても合意が得られず、実家の売却が必要な場合には、
●実家を売却して代金を分ける「換価分割」を前提にした審判
●さらには、共有物分割訴訟を提起し、最終的に競売による処分を視野に入れる
といった、かなり強度の高い手段を検討せざるを得ないこともあります。
③2023年改正民法による「所在等不明共有者」に関する新制度
相続人の一部が行方不明で、結果として共有不動産の一部持分の所有者が所在不明になってしまっているケースに対応するため、2023年の民法改正で新しい制度も設けられました。
●所在等不明共有者の持分を、裁判所の関与のもとで取得する制度
●売却を前提として、所在等不明共有者の持分を譲渡できる制度
などにより、従来よりも不動産の処分がしやすくなっています。
もっとも、相続によって共有となった「遺産共有」に関しては、相続開始から一定期間(原則10年)が経過していないと使えないなど、要件も細かく定められています。
また、裁判所への申立てや価格の決定・供託といったステップも必要なため、「簡単にすぐ片づく制度」というよりは、既存の手続きに新たな選択肢が増えたというイメージで捉えるのが現実的です。
