◆88歳の母と迎える2人だけの大晦日

「会話はできるんですけど、同じ話を何度も繰り返す感じでした」
母親は田舎の一軒家でひとり暮らしを続け、週2回のデイサービスと、朝夕のヘルパーの支援で生活していた。
「年末年始だけはヘルパーさんが休みになるので、私が泊まるようにしていました」
大晦日、普段は買い物に興味を示さない母親が、「買い物に行きたい」と言い出したそうだ。
「たぶん、年末の雰囲気を感じたかったんだと思います」
連れて行ったものの、結局何も買わずに帰宅。その後は夕食を済ませ、紅白歌合戦を見ながら過ごしていたという。
◆「正月だから風呂に入る」と言い出して…
「そのとき、急に『正月だから風呂に入る』って言い出したんです」
普段、入浴は、ヘルパー介助が必要だ。「ひとりでは無理だ」と伝えても、母親は「ひとりで入れる」と引き下がらなかった。
高橋さん自身が入浴介助をすることへの抵抗もあり、母親自身もそれを望んでいないだろうと考え、ひとりで浴室に向かわせた。
「私はテレビを見ながら、風呂の音だけは気にしていました。浴室からは“キュッ、キュッ”とバスタブの中で体を動かす音が聞こえていたんです。だから、『大丈夫』だと思っていました」
しかし、30分経っても母親は出てこない。不安になり、脱衣所から声をかけると……。
「ちょっと手伝って!」
扉を開けると、お湯がほとんど抜けた浴槽の中で、裸のまま震える母親の姿があったという。
「一瞬、頭が真っ白になりましたね」
実家の浴槽は、押すと栓が開き、もう一度押さないと止まらないタイプだった。誤って一度押してしまい、そのままお湯が流れてしまったのだろうと、高橋さんは振り返る。
「凍えるほどの寒さではなかったのが救いでした。そもそもお風呂に入らせるべきじゃなかったし、もっと早く声をかけるべきでした」
高橋さんの母親は、今も元気に田舎での生活を続けている。
「次の大晦日は、同じことを繰り返さないようにしたいですね」
<取材・文/chimi86>
―[年末年始の憂鬱]―
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。

