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【連載】月刊ブング・ジャム Vol.106 新春スペシャル ブング・ジャムが語る「どうなる・どうする2026年」 その1

【連載】月刊ブング・ジャム Vol.106 新春スペシャル ブング・ジャムが語る「どうなる・どうする2026年」 その1



文具のとびら編集部

本サイト編集長の文具王・高畑正幸さん、イロモノ文具コレクター・きだてたくさん、ブンボーグA・他故壁氏さんの3人による文具トークライブユニット「ブング・ジャム」が、気になる最新文房具を独自の視点から切り込んでいく「月刊ブング・ジャム」。今回は「新春スペシャル」として3日連続で、ブング・ジャムのみなさんに2026年の展望や抱負などを語っていただきました。

第1回目は高畑編集長です。
(写真左からきだてさん、他故さん、高畑編集長)*2025年11月7日撮影
*鼎談は2025年12月20日にリモートで行われました。


便利のその先へ

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――あけましておめでとうございます。

(一同)おめでとうございます!

――ということで、新年恒例「今年はどうなる・どうする」をみなさんに発表していただきます。まずは、「文具のとびら」編集長の文具王・高畑さんから発表していただきましょう。

【高畑】自分の話もあるけど、一応編集長ということなので、業界の話をしておこうかなと思うんですけど。

【きだて】編集長として、業界全体の話をしてもらわないとな。

【高畑】で、去年は何を話したかというと、学童文具の大人化って話をしたんだよね(こちらの記事を参照)。それは割とと外れてなかったかなという感じで。

――そうでしたね。

【高畑】去年は大人のやる気ペンが出て、それが大きなニュースにもなったかなと思うので、全体的には大人がモチベーションを持って勉強するのが結構しんどい状況で、それこそ三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という本が出たじゃない。

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大人のやる気ペン(コクヨ)


【きだて】はいはい。

【高畑】まああの本については色々と賛否あるんだけれども。要はみんなどこかに、本が読めてないとか、勉強できてないとかいう。なんとなく後ろめたさがあるところが顕在化してきているなと。これは多分今年も続くよねと思っていて、大人の「勉強しなきゃいけない」とか、「リスキリングしなきゃいけない」とか、「教養がなければいけない」とか、とにかく勉強しなきゃいけない雰囲気で、それをやってないと取り残される雰囲気みたいなのが世の中に蔓延してきてる感じはある。だから、どうも最近の教養とか人文とかのブームって、何か別にみんな好きでやってるっていうよりは、教養を持ってないといけないみたいな、どちらかというとネガティブな側面でみんな教養を持とうとしてるんじゃないのかっていう。

――なるほど。

【高畑】僕自身は、文房具のことを調べたりするのは、単純に好きでやってるつもりではあるんだけど、大教養ブームって、みんなその面白さに気づいたのかと最初は思ったんだけど、地政学とか歴史とか美術とかそういうコンテンツが溢れてるけど、じゃあそれどうなのかっていうと、何かちょっとした圧があった気がするのね。

【きだて】ここしばらく、あきらかに反知性的なムーブメントというのがあったじゃない。

【他故】あったね。

【きだて】教養ブームってそれに対してのカウンターなのかなと最初は思ってたんだけど、それともちょっと違う感じで。実は根っこは同じなのかもしれないなと。

【高畑】教養ブームではあるんだけど、「教養をつけなきゃ」でファスト教養というか、簡単に身に付く教養が欲しいみたいな感じにはなってるのかな。

【他故】うん、分かる分かる。

【高畑】本当に好きで本を読んでるわけじゃないし、本当に教養を身に付ける感じじゃないから、モチベーション維持めっちゃ大事っていうところだと思うんですよ。

【きだて】うん。

【高畑】それで今年の話なんだけど、そのモチベーション大事、っていうところが一方であるのと、あと2025年期後半のブームとしては、いきなりシールブームじゃないですか。

【他故】うん。

【高畑】恐ろしいことになっていて、それまではスタンプとか手帳系のデコるブームとかすごいあったけど、それとはまた全然違う。多分、それより前に流行ったシールブームとは、ちょっと文脈が違う気がするのね。

【きだて】例えば?

【高畑】「ボンボンドロップシール」が売れてるのは、あれは「ボンドドロップシール」が目的であって、手帳ではないんですよ。

【きだて】はい、そうだね。

【高畑】これまでのマスキングテープがあって、シールがあって、スタンプがあってというのは、どっちかっていうと、手帳デコるとか文具ステキにやってる人たちが楽しんでいく系の道具だったと思うんですよ。手帳がログになったりして、空いてる部分を埋めなきゃいけないみたいなところで出てきた。それは、きだてさんが言ってた、手帳をシールで埋めていくとかスタンプで埋めていくっていう話だったと思うんだけど、「ボンボンドロップシール」って、もはやそういう話では全然なくて、ビックリマンシールと一緒なんだよね。

【きだて】あきらかにコレクションとトレードが前提で。

【高畑】要は、持ってることに意味がある。

【きだて】流れとしては、完全に平成女児文化の流れなんだよね。

【高畑】それがもう 1 回大人でもなってるし、でも大人と同時に子どもも。だから2世代で母娘が同時にはまってる面白さがあるじゃない。

【他故】そうそう。

【高畑】それで明らかに、全く足りない状態で年末に突入して。今年しばらくはそんな感じで行くよねっていう。

【きだて】Xで「ボンボンドロップシール」を検索すると、恐ろしい情報が大量に出てくるよね。「抽選販売が何日何時から行われます」とか「整理券は何時から発券します」とか。

【高畑】そうそう。だから、お店もかなりやばくなってて、一時期の「クルトガダイブ」の販売と同じような感じで、抽選販売をしたり整理券を出したり、入場制限をしたり、購入数制限をしたり⋯⋯、要は加熱しすぎたアイテムになってるけど、でも「本質は何なの?」って言ったときに、多分少し前ののシールブームとは全然違っていて、多分そのシールそのものが目的になってる。

【きだて】完全なコレクターアイテムの方に流れちゃってるので。

【他故】そうね。


2025年7月にサンスター文具から発売されたすみっコぐらしの「ボンボンドロップシール」

【高畑】だから、文房具として機能してるかっていうのはどうでもよくて。昔僕らもあったけど、シールだったりとかメモ帳だったりを、ファンシーブームの時に交換したりとかってのはあったけども、それと同じようなことが今も再燃しているってことなんだよ。

【他故】うん。

【高畑】一方では教養ブームのところからのあれこれがあって、もう一方ではシールが売れるっていうのがあるんだけど、それで2026年はどうなんだろうねというと、文房具のフェーズとしてさ、便利だからっていうことではなくなっているなと思っていて、“便利のその先へ”という感じかなと思っているんですね。

――なるほど。

【高畑】これまでは機能性をアップしてきましたとか、コスパがいいです、値段が安いです、安い割にはすごく性能がいいですという、値段とか性能とか量とかっていうところだったんだけども、それがもう達成されてて、顕著なかたちで便利のその先へ行こうとしている。で、その「便利のその先へ行くよ」っていうのの方向が2つあって一つはやる気を起こさせてくれる、モチベーションを上げるための理由付けみたいなところで、もう一つは、趣味を楽しむための素材として、ファッションアイテムでもあるし、トレードアイテムでもある。文房具そのものが、趣味とか楽しみとかっていうかたちで目的化している。

【きだて】というのはどういうことだ?

【高畑】だから、文房具で何かを達成するっていうか、ノートを取るための文房具ではなくて、その文房具が可愛い面白いっていうのが、本質になってる。だから、性能が上がったから欲しいんじゃなくって、それを持っていたいから欲しいみたいなところが結構強い。

【きだて】ホームセンターでドリルを探してる人は穴を開けたいんだけじゃなくて、やっぱり単にドリルを探してたんだ、みたいな。

【高畑】そういう話。マキタのドリルが欲しいとかさ。カメラも、写真を撮りたいんじゃなくて、カメラを買いたい人ってのはいるわけじゃん。

【他故】うん、分かる。

【高畑】そんなところはあるよね。

【きだて】ここしばらくのシャーペンブームってそういうことだったよね。

【高畑】そうそう。木軸シャープが多分それなんだよ。木軸シャープは、シャーペンの機能性が欲しいのではなくて、木軸のシャープが欲しいし、どの銘木の木軸シャープか欲しいっていうことが結構重要じゃないですか。だから、そういう所有欲だったりとか、友達との間のヒエラルキーだったりとかいろんなことがあって。しかも、女児に関して言うと、トレードアイテムとして経済とか社会みたいなものがそこにあるわけじゃないですか。そういうのって、ある意味では文房具の本質とは外れるんだけど、ただやっぱりブームってそんなもんだよねっていうのがあるので、それが便利を超えた方向に行ってるよねと。

【他故】うんうん。

【高畑】もう1個の超えた方向っていうのは、大人とかがよくあると思うんだけど、その教養ブームで顕著だったと思うんですね。コクヨの「大人のやる気ペン」が好例だったと思うんだけど、みんなやらなきゃとは思ってるけど、なかなかできなくてモチベーションが上がらない。気持ちを上げていくのがとにかくしんどいっていうのがベースにある中で、やってみたくさせてくれることが重要なんだなっていう。

【他故】ああ。

【高畑】クツワの「ヨンブンカッツ」のいいところって、紙が節約できてどうこう以前の問題として、「ベリ」っていうのをやってみたいとか、そういうのがあったりするじゃん。


「ヨンブンカッツ」(クツワ)

【他故】うん分かる。

【高畑】「ヨンブンカッツ」は別に勉強とは関係ないから、義務感はあんまりないんだけど、「ウカンムリクリップ」とか、大人の勉強系みたいなのってみんなそうだと思うんだけど、中でも売れてるものっていうのは、本当に便利だからっていうだけではなくて、プラスやってみたさを魅せる力がなんかすごくある気がするのね。モチベーションを上げてくれるデザインだったりとか、「キレーナ」もやってみたい気分にしてくれる特徴がある気がする。

【きだて】自分がそうなので、ADHDの仕事術とかそういうような本をちょいちょい読むんだけれども、「仕事の入り口5分の取っかかりを作る工夫をしろ」っていうのは、大体どの本でも言ってるのね。

【他故】ああそうね、あるね。

【きだて】勉強に関しても、多分そこだなと思って。だから、いったん始めてしまえばみんな何となく惰性で進められるんだよ。なんだけど、始めて進み始めるまでの「入り口5分」をなんとかさせるためにはどうすればいいのか?っていうのが「大人のやる気ペン」だったりとかするわけじゃない。「これ使ってみたい」っていう。そのペンを使ってみて面白いなと思ったら、それこそ5分、10分で勉強をやるということに集中すればいいじゃんっていう。

【高畑】そうだよね。本当に習慣づいて勉強できる人からしてみたら、「大人のやる気ペン」ってじつはジャマなんだよ。

【他故】うん。そうだよね。

【高畑】一々付けなきゃいけないし、しかもバランスが崩れてペンが邪魔になるし、できる人から見たらジャマでしょうがない。でも、できてない人から見ると、それを付けて頑張って、こまめにご褒美があって、しかもその中でコミュニティができて、「私も資格試験に向かって頑張ってます」みたいな友達とコミュニケーションが取れていくっていうのは、ちょっと前の「スタディプランナー」とかもそうだけど、そういう社会性まで持ってるし。で、どっちかというと、「やってみたいな」って思わせることが重要なのかな

【きだて】それこそスタディプランナーは、コミュニケーション性というのは共通してのかもしれないけど、完全に別の入り口なんだよね。

【高畑】ん?

【きだて】スタディプランナーをやることで、勉強をやりたくなることはまずないんですよ。

【他故】おおっ。

【きだて】そこでもう疲れ果てちゃうので、勉強の入り口にはならなかった。

【高畑】ああ、なるほどね。

【きだて】だからスタディプランナーって、すでに勉強ができる人が、より効率よくできるようになるための道具であって。

【高畑】まあ、あれだけ書いて、あんまり勉強できてない人もいるとは思うし。スタディプランナーが目的化してる人もいるとは思うけど。「大人のやる気ペン」は、付けたらとりあえず一応何か書いてるからね。

【きだて】ようやくコクヨが、俺ら勉強できない勢の気持ちを分かってくれたかっていう。

【高畑】あ、なるほど。

【他故】ははは(笑)。

【きだて】スタディプランナーとかそういうのは、もう頭のいい人たちだけでやってちょうだいよっていう。

【高畑】そうなのかな。多分、それの階層なんだろうね。スタディプランナーなんかやってる時間があったら勉強しろやっていう。もっとできる人はちゃんといて、でスタディプランナーをSNSにアップして、まあ、図書館やカフェに行って勉強すると同じで、それでモチベーション上げる人がいる。さらに、それよりもっと直接的に鼓舞してくれるのが「やる気ペン」なのかな。あと「ウカンムリクリップ」のあのちょっと変わった形を使って勉強したいっていうのが、教科書を広げるモチベーションなわけだよ。

ウカンムリクリップ.jpg
「ウカンムリクリップ」(サンスター文具)


【きだて】それで結局のところ、ボトム層と言っちゃうとやらしいんだけども、俺ら勉強できない勢っていうのが、ピラミッドの中では 1番大きいボリュームゾーンなわけじゃない。

【他故】ああ、そうね。

【きだて】だから、ようやく文具メーカーがそういうところに焦点を当て始めたのかなという感じもするよね。

【高畑】焦点を当て始めたっていうか、真面目に普通に作ってるんだけど、その中でバズっちゃったやつがすごく目立ってるじゃない。トモエそろばんが出している普通のクリップが今までもあったわけで、それでも十分なんだけど、「ウカンムリクリップ」になった途端に、あれは留めてみたい感があるじゃないですか。だから、真面目に機能を果たしたとしても、そのやりたいっていう思いを持ち上げる力が弱いものと強いものがあって、それが強いものが生き残ってるというか、バズって売れてるっていうのがある気がするので。ここしばらくで売れたっていうか、バズった文房具っていうのは、それこそそのやってみたさを演出するのが上手だったのかなっていう気はする。

【他故】ああはいはい、分かる分かる。

【きだて】それこそ一時期めちゃくちゃ流行った自立するペンケースだって、多分同じなんだよ。

【高畑】うんうん、そうだね。

【きだて】机の上に文房具を展開してみたくなるわけじゃない、あれって。

【高畑】ああ、そうだね。

【きだて】で、文房具を展開すると、もう結局のところやらざるを得ないシチュエーションになってるわけじゃない。その「ウカンムリクリップ」で参考書を開いておくっていうのと一緒で。

【高畑】そうだね。だから、机の上でペンケースを開くっていうところをまずやれっていうとこだよね。

【きだて】そうそう。あの焦点の当て方が、もうちょっと具体的になってきたのかなっていう感じはするよね。

【高畑】子どもだけじゃなくて大人も含めて。「ウカンムリクリップ」は大人にも売れてるし。あと、高級下敷きもそうだと思うんだよね。あれも書いてみたいって思っちゃうじゃない。

【他故】そうそう、そうだよね。

【高畑】そうすると、何か書くわけで。じゃあ、何書こうかなっていったら、試験とかある人はそれの勉強だし、そうじゃない人もそこで勉強が始まるっていうところだと思うので。「勉強しなきゃ」とか「教養持たなきゃ」っていう焦りみたいな切迫感が一方であるんだけど、具体的に勉強する気持ちを上げることが普段だとちょっと難しい。そこへ、ちょっとやってみたくなるんじゃないのかっていう感じを文房具が持ってる気がするのね。

【他故】うんうん。

【高畑】それはもちろん、そういうスマホアプリもあるんだろうと思うけど、バズった文房具を見ると、前向きに背中を押してくれるというか、むしろ引っ張ってくれるというかさ、そっちに行きたくなる力をみんな持ってたような気がするなと。

【他故】あーそうね。

【高畑】だから単純に、これまでの性能比で、これまで以上に良くって、「だからこれをちゃんと使うと便利なんです」っていうことを理屈で説明されるより前に、ウカンムリのかたちにやられるみたいな感じがちょっとあるなっていう気がするのよね。ほら、コクヨの「本に寄り添う文鎮」も、やっぱり本の上に置いてみたくなるじゃん。

【他故】ああ、そうね。

【高畑】だから、そういう「やってみたさ」を力にして、「勉強したい」んじゃなくて「勉強しなきゃ」っていう。今本当に「教養を持たなきゃいけない」っていうのがちょっとした脅迫みたいになってる気がする。みんな「知性が」とか言ってるじゃないですか。

【きだて】うーん、好きでやるならいいけど、「そんなに無理せんでも」って感じもするな。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】要は、仕事の中とかで何かしら優位に立つためのツールっていうのが欲しいんじゃないのかなと思うけど。それを簡単に身につけたいってことだとおもう。教養を身に付けたいんだったら、普通に本屋へ行けとか、図書館へ行けって話なんだけど(笑)。

【きだて】そうなんだよね。読みたい本を読みなよっていう。

【高畑】それができる人は、読みたい本を自分で選んで、別に流行ってても流行ってなくても、なんか自分の興味のある分野の、それこそ他故さんみたいに「北海道の砂金と砂白金」みたいな本を借りてきて自分で読める人はそれでいいと思うんだよ。かつての教用人としての教養のあり方としては全然そうなんだけど、今の人たちが教養のあり方って、なんかちょっと違うかなっていうか。「教養としての○○」って書いてある本っていうのは、明日からビジネスで使える雑学じゃないですか。

【他故】ああ、そうだね。

【高畑】仕事人として「それは知っとかなきゃ恥ずかしいよ」って言われてるだけで、別に教用としてのって言うんだったら、イロモノ文房具をちょっとずつ研究してとかさ。それは、荒俣宏先生も言ってるわけじゃないですか。

【他故】それは本当に教養だよ。

【高畑】荒俣さんの本にも、「こういうことやってる人がいて、こういうのが大事だよ」って言って、わざわざイロモノ文房具を集めてる人がちゃんと本に書かれてるぐらいなので。

【きだて】荒俣さん、本当にありがたいですよ。むかし朝日新聞で取り上げてくれたときから、すごい褒めてくれて。

【高畑】だから、きだてさんのイロモノ文房具は多分教養なんだけど、そういう風に自分のモチベーションでドライブしてそこに行ける人っていうのはやっぱ少ないから、文房具がそれを後押しするツールとして必要みたいな感じ。単に便利にしたものは売れないんだけど、便利にした上で「それはちょっと1回触ってみなきゃ」っていう何かを醸し出せるかどうかが結構キーなのではないかとおもう。

【他故】なるほど、なるほど。

――そういう文房具が、今は学習系のもので目立つっていうことなんですかね?

【高畑】子どもって、別に勉強したいわけじゃないじゃないですか。小学生に対して、勉強するモチベーションを上げようぜっていう力を、多分ソニックとかクツワとか、そういうところはそればっかり研究してるわけじゃん。

【きだて】だから、例えばソニックの「トガリターン」なんか、まさにそういうものだったじゃん。

【高畑】そうそう、そういうこと。

【きだて】鉛筆削ってみたくなるでしょ、っていう。「そこから始めんのかい!」って感じではあるけど。

【高畑】あの「ハシレ!エンピツケズリ!」もそうだしさ。鉛筆を削るモチベーションをそこでやってみて、せっかく削ったんだからそれで書くとか、なんか削ってなんかやろうよっていう方向に持ってってるよねっていう。

【きだて】そういう方向性で言うと、古のマチック筆入みたいな、ああいう触ってみたくなるペンケースってのが今後またリメイクされるかもしれないね。

【高畑】だから、「何それ?!私もやってみたい!」が多分重要だから。新しいギミックみたいなものが上手く設計されてると、それをきっかけにやってみたいよねっていう。まあ、実際どのぐらいやれるかはともかくとして、「やってみたいよね」がバズるので。単純に「便利」っていうキーワードではダメなんだなって思ってるので、面白いとかやってみたいっていう、特に体験を誘導するって重要なんだなと。

【きだて】それで興味惹かれるのは、結局のところ、子どもも大人も大差ないわけで。

【高畑】そういうことだね。

【きだて】だから、学童文具から大人文具への移行がスムーズに行ってるんだなっていう。

【高畑】歳を取ってるけれども、別にそこで自分でモチベーションを内製できるほど大人にはなってないっていうことがバレてる。

【きだて】そういうことだよね。

【他故】あるある、そうだよ(笑)。

【きだて】結局のところ、そこに何らかのブースターがいるわけだからさ。

【高畑】日経トレンディのヒット商品30の中に「キレーナ」と「大人のやる気ペン」が入ったんだよね。どっちもそういうとろこなんじゃない。極論すると、別に蛍光ペンなんてどれだっていいわけなんだけど、でもやってみたいじゃんみたいな力が、多分そこにはあるんだろうな。で、そのやってみたいの力を借りないと勉強できない俺らっていうのがいるっていう(笑)。

キレーナ.jpg「キレーナ」(パイロットコーポレーション)


【他故】ははは(笑)。

【きだて】とはいえ、そういう風に入り口を絞ると、文房具の開発って難しくなるね。

【高畑】普通に便利になっていくっていうのがもう限界が近いんじゃないのかなと思っていて。もう随分便利じゃん、世の中がさ。

【他故】まあね(苦笑)。

【高畑】これ以上不便を探すのが難しいぐらい、日本の文房具ってかなり高度なところに来てしまったので。不便なことがあった時代は、もっと便利なものが必要とされたと思うんだけど。高い次元でみんな便利になっちゃった結果、これ以上良くする幅が狭すぎるから。どんなに便利なものがあってもモチベーションが上がらないと使ってもらえないよねみたいなところを上げてくっていう方向でのデザインとか、体験の面白さみたいなところなのかな。

【他故】うん。

【高畑】だから、ライターとしてというかYouTuberとしてやってる部分には、多分これからは単純な便利は効かない。「便利だから買え」っていうのは効かなくなってくるんじゃないのかな。確かに便利なんだけど、その便利っていうのが、面白くて便利だったりとか、素敵に便利だったりとかっていう。もちろん、不便はダメなんだけど。

【きだて】そもそも、その道具が便利かどうかを判断するのって、教養が必要だと思うんだ。「最新アイテム、ここが便利です」と理解するのには、まずこれまでの文脈というか、過去にあるものと比較して考えるための知識と経験が必要で、そこから「こういう時に便利かもしれない」という類推もしなきゃいけない。でも、単に「使ってみたい」は、もうちょっとプリミティブというか、感情的な部分なので。

【高畑】多分、きだてさんが言ってる便利っていうのは、教養がないと分からないというか、経験とか何かしらの判断ができないと分かんないっていうのは、これまで通りYouTuberとかが「これが便利なんです」って言って、そのYouTuberがすごく有名な人だったり、好感度の高い人とかだったら、それは「この人が言ってるから便利なんだ」みたいな入り方もあるわけじゃないですか。自分で判断はできなくてもその人が言ってくれた。で、その人が分かりやすく説明してくれたから、「ああなるほど」と言って買うっていうのはあると思う。だけど、それってワンクッションその人の解釈を必要とするんだけど、ボーンって売れるものっていうのは、最初出てきた瞬間にみんなが「欲しい」って思うもので、それをちゃんと自分で言えるもの。商品そのものがそれ以前に、「やってみたいよね、これやったら便利だよ」っていうのをかたちにしてるっていうのがある気がするので、その説明を上手いこともってたのがその辺かな。高級下敷きなんかは、「すごい書き味がいい素材でできた下敷きです」って言われたら、「うわやってみたい」ってなるじゃない。「魔法のザラザラ下じき」もそうだけど、そういうのが顕著になってるよね。まあ、道具でやる気を出すっていうのは子どもの頃から変わってないけどさ。

――「魔法のザラザラ下じき」は、大人用も出ましたからね。

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「大人の魔法のザラザラ下じき」(レイメイ藤井)

【高畑】そうそう。一方で、そういうモチベーションアップがあって、もう一方では、文房具である必要があるかどうか分からないけど、木軸シャープだったり、「ボンボンドロップシール」だったりが持っている魅力は、単に文房具が持っている魅力だけじゃなくて、モノが目的化しちゃってるので、便利の軸じゃないよね。「クルトガの新型が出ました」とか、「エアステップが出ました」というのが便利軸だと思うんだけど、しーさーさんのもそうだし、KAYOU+もそうだし、あの辺のペンって、どっちかっていうと「所有したい」が強いよね。

【他故】うん、そうだね。

【高畑】もちろん、不便じゃダメなんだけど、「便利かどうかは二の次じゃん」みたいな感じにちょっとなってるよね。

【きだて】とは言え、実際に使ってみても便利にならないものを高いカネを出して買っていると、いつかは「ハッ、これは良くないかも!」と気付くんだよね。木軸のシャープペンなんかでもそうなんだけど、そういうのは危険だなと思うよね。

【高畑】危険ではあるよね。何パーセントかはそれだし、何パーセントかは使っているうちに解像度が上がって、「こっちじゃなくてあっちだ」と言っていろんな商品を買う人もいるだろうし、モチベーションの原泉が何であろうと、「勉強するんだったらそれでもいいわよ」というのはなくもない。

【他故】ゼロじゃないよね。木軸シャープペンをずらっと並べて、それを眺めて「いいなぁ」と言って、それで勉強をするのは普通のシャープペンという子は実際にいるので。

【高畑】それもいるよね。

【他故】それはそれで今はしょうがないというか、「いいんじゃない?」っていうのはあるよね(笑)。

【きだて】なので、今、木軸を集めている人たちに言いたいのは、ハッと気付いても諦めるなっていうことかも。

【高畑】えっ、どういうこと?

【きだて】ハッと気付いてしまっても、歯を食いしばって5年、10年と集め続けると、ちゃんと価値が出ますっていう。

【高畑】あ、なるほどね。

【きだて】そうやってイロモノ文具を20数年集め続けた俺が言うんだから、間違いないよ。今までに何度ハッと気付いたことか(笑)。

【他故】ははは(笑)。

【高畑】イロモノは気付き方が激しいけどな。

【きだて】俺、最初は傾けるとヌードになるペンのコレクターだったわけですよ。あれに関しては、ハッと気付いたときに全部人にあげちゃったのね。あれを我慢して今でも持ち続けていたら、自分にとってはすごい価値があったはずで。木軸もね、絶対いずれそうなるよ。ハッと気付いても売ったり捨てたりするなっていう。

【高畑】それは多分、自分がそこに文脈として存在してるしね。集めたっていう事実が、自分と紐付けされてるし。

【他故】そうそう。

【高畑】いやでも、ある時気が付いて卒業してしまうのは、確かにあるかもしれないけど。

【他故】卒業しても、取っておいてほしいよね。その時の思い出という意味合いで全然構わないから、取っておいてほしいな。

【きだて】思い出に加えて、当時史の資料としても絶対に良いんだよ。あとはそこをしっかり熟成させると、他人に「古くから集めてる俺から言えば、木軸というのはね」みたいな感じで語れるようになる。だから、他の人がハッと気付いて捨ててるものを持っておくっていうのは、戦略上正しいんですよ。

【他故】分かる分かる(笑)。

【きだて】なので、そういう思いとどまり方をしてほしいなっていうのはある。

【他故】思いとどまり方(笑)。

【高畑】今からハッとする前提の話ではあるけども(笑)。

【きだて】決まってんじゃん、木軸のペンなんか。

【他故】いやいや、使ってる人はいるんだからさ(苦笑)。

【きだて】だって、実際に使いやすいとは思ってないでしょ?

【高畑】「良い木軸のシャープペンを使ってるぞ」っていう気持ちが、受験を乗り切ったっていいとは思うけどもね。

【他故】それは全然アリだよ。

【高畑】今そうやって「木軸なんて」って言ってるけど、木軸のシャープペンが悪いかと言ったら、十分普通に使えるわけじゃん。

【きだて】それはそうなんだけどね。

【高畑】要は、悪い物っていうのがあんまりないんだよね。どこのシャープペンを買っても、ボールペンを買っても書けちゃうし、ちゃんとしてる。その上で、性能面でこっちへ行くというのもあるけど、そうじゃなくて「木の肌の育つ感覚が良い」とか、「真鍮のこの色が良い」というのも、それはそれで。で、大人もそんなに言えないじゃない。すごいレンズのカメラを買う人とかいるじゃない。カメラの写真はいっぱい上げるけど、そのカメラで撮った写真はないSNSとかあるじゃないですか。万年筆はいっぱい持ってるけど、書いた字は一切見せてくれない人とかもいるじゃないですか。

【他故】まあね。

【高畑】それは、木軸も万年筆も変わらないじゃない。「お気に入りが1、2本あったらそれで十分じゃん」って言われたら、「確かにその通り」ってなるし、「この螺鈿が」と言ってるけど、それが書き味に影響しますか?と言ったら、別に関係ないっていう(笑)。まあ、螺鈿の万年筆は使う気はないかもしれないけど、今話題になってる文房具って、買う・使うが前提にあるような気がするので。中高生の木軸シャープも、多分多くの人は使う気がないわけではない。

【他故】まあ、そうだよね。まるっきり飾っとく人はそんなにいないんじゃないかな。

【高畑】「これを使うと勉強できるんだ」っていう言い訳を、お父さん、お母さんにして買うってのもあるし(笑)。

【きだて】どれ使っても一緒じゃん。

【高畑】いや、そうだよ。

【きだて】だから、ユニット一緒なんだからさ。

【他故】そう言うなよ(苦笑)。

【きだて】本当は、2本以上あったってしょうがないんだから。

【高畑】それは、あのパンチングボールペンが、カンガルーだろうが、サンタクロースだろうが全部一緒だよみたいな。

【きだて】そうだよ、そこで歯を食いしばれるかどうかって話なんだだから。

【他故】歯を食いしばるんかい(苦笑)。

【高畑】だから、ハッと気が付いた時にはそうだね。ハマってる時はそれでいいんだよ。「面白い」「この木がいい」って思ってる時はそれでいいんだけど、そういうものがないと頑張れない弱い心に寄り添ってくれているから。なおかつそれのいいところは、パンチングボールペンとかだと明らかに「お前遊んでんだろ?」って感じがするけど、今の木軸シャープにしろ、高機能特殊シャープもそうだし、それがあんまりふざけてるように見えないところがポイントなんだよ。

【他故】ははは、そうだね(笑)。

【高畑】学校に持っていっても、「真面目にやってます」っていう顔をしてるじゃん。

【きだて】木軸は先生が怒らないの、ずるいよな。

【他故】「ずるい」ってさ(苦笑)。

【高畑】ヌードペンは没収されるけど、カチカチボールペンとかシャーペンとかは、まあいいかなみたいな。「ウカンムリクリップ」も、言ったら冗談みたいな作りなんだけど。でもまあちゃんと使えるしみたいなところで、割と真面目に使えるじゃないですか。その割に、「それ何」って言われたら、「これはね」って説明できるしさ。ちょっと自分が得意げになれるポイントをちゃんと用意していて、くすぐってくれるのがいいとろこかな。

【他故】うん。

【高畑】「これが便利なんですよ、こうやって使えば便利なんですよ」って説明しなきゃいけないところは、もちろん我々としてはそれはやるし、それは本当に便利なんだけど、ただ「便利なんだから買ってくれて当然」っていう時代はもう終わってるよねっていう。便利なんだけど、やってみたさを伴わない便利っていうのは、確かに真面目にやったら便利でしょうけど、ちゃんと勉強したら大学に行けるんでしょうけどみたいな。

【きだて】結局、俺らが普段からやってることってさ、理解にするのに経験やらなんやらが必要な便利っていうのを、他人に説明して使ってみたいと思わせることじゃん。

【他故】我々はそうだね。

【きだて】特に、俺なんかそういう仕事じゃん、ライターとして。

【高畑】そうだね。

【きだて】だから、今後はさらにそういうところが求められるようになるだろうな、という予測はしてます。仕事としての、説明して使ってみたいって思わせる業。

【高畑】それはだから、それがない商品をそうさせるっていうのがきだてさんの仕事であって、理想的にはきだてさんを必要としない文房具がバズってるという意味では、そうなんだろうね。

【きだて】考えてみたら、それは敵なんだよな。

【他故】職業的には敵だね(笑)。

【高畑】きだて殺しみたいな話だよね。

【きだて】そう考えると良くないね。

【高畑】良くないかもしれない。いろんな種類が出てる学習タイマーとかもさ、時間を計ること自体一緒じゃん。でも、棒グラフにしました、円グラフにしました、ラップタイム測れますみたいなのもパッと見やってみたいだし。多分、説明をあんまり必要としないものに関しては、きだてさんを殺しに来てるっていう。

【他故】ははは(笑)。

【きだて】良くないな。

【高畑】でも逆に、「便利なんです」っていうのを言っても、「あそうね、便利なんでしょうね。それはでも素敵には見えないけど」っていうものはどんなに便利だって声高に言っても買ってくれない可能性が高い。

【きだて】ああ。

【高畑】だから、それを分かって買う人は、ちゃんとそれで得られるものの方にシフトできる人だから、元々教養の高い人だったりするかもしれない。少なくとも、文具リテラシーの高さっていう意味ではね。だから、僕やきだてさんがどんなに「この機能は便利なんです」って言っても、「いやでも、別に見た目がそんなに、人前で使ってみたいって思わないよね」みたいな。「ちょっとカッコ悪いけど、ちゃんと使うと便利なんだよ」みたいなのは、それは分かるんだけど、ただ流行らないよねっていうのはあるよね。

【他故】そうだね。

【高畑】だから、そこがカッコよかったり、面白かったりしないといけなくなってる。バイオリンが上手いですじゃなくて、美し過ぎるバイオリニストが流行る。イケメンなのに料理上手とか経済を語れるとか。

【きだて】付加価値の話になって、大分逸れてきたような気もするんだけど、大丈夫か?

【高畑】だから、理解してる人にとってはちゃんと便利みたいなのはちょっと難しくて、もう見るからにやってみたいっていう面白さを持った便利文具じゃないとダメっていう話なので。すでに「便利」っていうキーワードだけで押せる時代はもう終わっているなと思っていて、それが顕著に大人の文房具と、それから子どもたちが集めている文房具に出てるんじゃないのかな。便利だけでは生き残っていけない時代が来たなっていうのが私の話です。

――まあ、そういう部分も考えながら、これから商品開発をしないといけないっていうことですね。

【高畑】もちろんみんなしてるんだけどね。それが上手くはまっているものは、割と上手くいってるよね。

*次回は他故さんです


プロフィール

高畑 正幸(たかばたけ まさゆき)
文具のとびら編集長。学生時代に「究極の文房具カタログ」を自費出版。「TVチャンピオン」(テレビ東京系列)の「文房具通選手権」では、3連覇を達成した。サンスター文具に入社し商品企画を担当。現在は同社とプロ契約を結び、個人活動も開始。弊社が運営する文房具のWebマガジン「文具のとびら」の編集長も務めている。著書は『究極の文房具カタログ―マストアイテム編―』(ロコモーションパブリッシング)、『究極の文房具ハック』(河出書房新社)、『そこまでやるか! 文具王高畑正幸の最強アイテム完全批評』(日経BP社)、『文具王 高畑正幸セレクション 一度は訪れたい文具店&イチ押し文具』(監修/玄光社)、『究極の文房具カタログ』(河出書房新社)、『文房具語辞典』(誠文堂新光社)と、翻訳を手がけた絵本『えんぴつとケシゴム』(KADOKAWA)。新著は『人生が確実に幸せになる文房具100』(主婦と生活社)。
https://bungu-o.com/


きだて たく

小学生の時に「学校に持っていっても怒られないおもちゃ」を求めて、遊べる文房具・珍妙なギミックの付いた文房具に行き当たる。以降、とにかく馬鹿馬鹿しいモノばかり探し続けているうちに集まった文房具を「色物文具=イロブン」と称してサイトで公開。世界一のイロブンコレクターとして文房具のダメさ加減をも愛する楽しみ方を布教している。著書に『イロブン 色物文具マニアックス』(ロコモーションパブリッシング)、『愛しの駄文具』(飛鳥新社)など。
色物文具専門サイト【イロブン】http://www.irobun.com/

他故 壁氏(たこ かべうじ)
小学生のころから文房具が好きで、それが高じて文具メーカーに就職。ただし発言は勤務先とは無関係で、個人の見解・感想である。好きなジャンルは書くものと書かれるもの、立つ文房具と薄いペンケース。30分間文房具のことしか語らないトーク番組・775ライブリーFM「他故となおみのブンボーグ大作戦!」パーソナリティ。たこなお文具情報室所属。
「他故となおみのブンボーグ大作戦!」番組ホームページ https://daisakusen.net/

「ブング・ジャムの文具放談・完全収録版~2025年Bun2大賞を斬る!~」の電子書籍を文具のとびら商店で販売

配信元: 文具のとびら

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