
相続発生後に故人の資産状況を調べた結果、「お金の流れがおかしい」となれば、相続人間で疑心暗鬼となり、修復不能なトラブルになりかねません。ここでは「家庭内の使い込み問題」について、現場の実例と法的観点から見ていきましょう。司法書士・佐伯知哉氏がわかりやすく解説します。
相続で最も揉めるのは「遺産の金額」ではなく…
高齢となった親が弱り始めると、銀行口座の管理や通院の支払い、介護費用の立て替えなど、家族が日常的にお金を動かす場面が増えていきます。しかし、いざ相続が始まると、この「日常における、必要で当たり前の行動」が、一転して疑いの対象になることがあります。
相続実務の最前線で強く感じるのは、最も揉めるのは「遺産の金額」ではなく、「亡くなる前のお金の流れ」だという点です。
「なぜ兄だけがキャッシュカードを持っていたのか?」
「なぜ母の口座から、亡くなる直前に多額の出金があったのか?」
「名義預金なんて聞いていない!」
悪意がなくても、説明ができなければ「使い込み」を疑われてしまう…。そんなトラブルはどの家庭でも起こり得ることなのです。
相続人たちが注目するのは「亡くなる前のお金の動き」
相続人全員が故人の通帳を確認したとき、最も注目されるのが「亡くなる直前の数ヵ月〜数年」のATM引き出し履歴です。
親が高齢になると、
●自力でATMに行けない
●通帳やカードの管理が難しくなる
●認知症の初期症状で判断力が弱くなる
といった事情から、子どもや配偶者が代わりに預金を動かすことが増えます。しかし、相続開始後、家族の目に入るのは記録された数字だけです。
「この50万円の引き出しは誰が?」
「何に使ったの?」
「説明できないなら使い込みでは?」
悪意がなくても、説明できないこと自体が疑念の対象になります。親を思って世話してきた人ほど、疑われた瞬間に深く傷つき、家族関係に亀裂が入ることも珍しくありません。よくあるのが、下記の3パターンです。
①キャッシュカードを預かっていた子が疑われる
介護や病院付き添いが一人の子に偏ると、その人が生活費や医療費を引き出す機会が増えます。しかし、通帳の動きが説明できなければ“横領したのでは”という疑いが生まれる。実際には親のために使っただけでも、記録がなければ反論が難しくなります。
②同居していた配偶者(母)が疑われる
「父の金を母が勝手に使っていたのでは」という典型的誤解です。医療費・生活費・介護費などの正当な支出であっても、記録がなければ疑念が残ります。
③「名義預金問題」は理解されにくい
名義預金とは、名義は子ども・孫でも、実質的に親の財産として扱われる預金のことです。
●親が勝手に子どもの名義で積み立てていた
●祖父母が孫名義で教育資金を入れていた
これらは相続税の対象になり、相続人間でも揉める火種になります。
