◆“子ども”という役を押し付けないで
渉さんの宿泊する旅館は、年末年始特別興行として落語家を招き、披露してくれるそう。その最後に質問などが募られるが、その場面に対してどうしても譲れない不満があると言います。
「ああいう場面があると、大人は子どもを前に出したがるよね。子どもに『あんた手挙げて質問しなさい!』って母も言うんだよね。こっちからしたら、興味のない落語見せられてそれだけでうんざりしてるのに、さらに質問しろって。でもさ、その小声は僕だけが聞こえてるんじゃなくて、周りにも届いてて、僕が手を挙げることをその場にいる大人全員が期待してるんだよ。だから手を挙げざるを得ないの。で、質問も真面目なものじゃなくって、子どもらしいちょっとふざけたものを期待されてること、分かるんだよね。その期待通りの質問を投げると大人は『かわいいね』って褒めてくれるし、お母さんも『あんたバカなことを……!』って困ったようにして喜ぶんだよね。正直、しんどい。たまったもんじゃない」
渉さんは両親の不仲な時期を見てきて、なんとか離婚を避けようと必死に両親の顔色をうかがっていたそう。だからこそ、“大人が自分になにを期待しているのか”を敏感に察知する能力を身につけてしまった。
渉さんのお母さんは楽しい時間を過ごして欲しいと思い、この旅行をプレゼントしているが、果たして渉さんのことをほんとうの意味で見つめられているのだろうか。渉さんがお母さんのことをよく見つめている分、その気持ちを考えると苦しくなる。
<取材・文/後藤華子>
―[年末年始の憂鬱]―
【後藤華子】
サブカルと外食が生きがいのアラサー人妻ライター。ライブハウスと居酒屋は実家みたいなものです。短所は好きなものの話になると、早口になるところ。

