海外空港で日本人女性が「売春や不法就労の疑い」を理由に足止めされるケースが増えている。入国拒否や強制送還に至る場合もあり、行政書士や弁護士のもとへの相談も増加しているという。
入国を拒否されるだけでは済まず、別室に連れて行かれ、長時間にわたる取り調べを受けたり、私物やスマートフォンの中身まで徹底的に調べられたりするケースもあるようだ。海外の入国審査で日本人女性が直面している現実を、具体的な証言から見ていく。
※ この記事は、フリーランス記者・松岡かすみ氏による『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日新書、2024年)より一部抜粋・再構成しています。
下着やポーチの中まで全て調べ詰問
入国審査官に売春を疑われた場合、空港の別室に連れて行かれ、警察官などから長時間にわたって取り調べを受けることになる。
「なぜ一人なのか」「職業は」「宿泊先は」「入国の本当の目的は」「入国後、誰かと仕事の約束をしているのではないか」といった質問に始まり、荷物も下着やポーチの中身に至るまで、全て調べられる。
服が多いと「なぜ荷物にこれほど洋服があるのか」、派手な下着が入っていると「なぜ下着が派手なのか。仕事で使うのではないか」という流れになる。
特に若い女性で高価なブランド品を身につけていたり、派手な格好をしていたりすると、ストップをかけられる傾向があるようだ。
スマホもロックの解除が求められ、メールのやり取りや各種SNS、検索履歴、登録している連絡先など、徹底的に調べられる。
やり取りのなかで個人名が出てきたら、その人に電話をかけ、本人の証言と電話をかけた相手との証言の合致を見て、真偽を確かめるなどする。
さらに、SNSでつながっている友人やスマホに連絡先を登録している知り合いが、過去に売春疑いで入国拒否になっていた場合は、同様の疑いをかけられることもある。
過去に入国拒否になった友人のSNSの写真にタグ付けされていて、それが記録されていたことで同様に入国拒否となる場合や、友達とのメッセージのやり取りが記録されており、入国審査時にパスポートの名前を見ただけで別室に呼ばれるケースも。
また指紋や唾液を採取されたり、写真を撮られたりする場合もあるようだ。たとえ本当に潔白であっても、入国審査官に誤解されてしまうこともあるという。
手錠や腰縄、足枷をつけられ丸一日取り調べ…
「入国審査官らもかなり情報をつかんでいるようで、各種売春斡旋サイトやパパ活サイト、売春斡旋をするエージェントなどについても相当詳しく調べています。
例えば過去に売春斡旋サイトに電話番号を登録していた人が、スマホの履歴などを全て消していたのに、アドレスや番号から“以前、このサイトに登録していましたよね?”と特定されたこともありました。
一人捕まえたらそれで終わりではなく、つながりのある人物は犯罪グループとみなされ、一網打尽に摘発しようとしているのだと思います」(アメリカのビザに詳しい行政書士の佐藤智代さん)
過去に入国拒否を受けた女性の中には、丸一日拘束され、手錠や腰縄、足枷などをつけて別棟の部屋に連れて行かれた人もいる。
取り調べ中に机を強く叩かれたり、髪の毛を引っ張られたり、人権侵害のような言葉を浴びせられたりした人もいるが、取り調べの記録には、審査する側のそうした言動は一切残らないのが通例だ。
また、売春目的で入国しようとした女性の中には、何と「膣の中まで検査された」という女性もいる。過去にアメリカで接触したことのある客の中に、麻薬の密売人と思われる人がおり、売春の前に薬物犯罪を疑われたケースだ。「薬物をどこかに隠しているのではないか」と服を全部脱がされ、身体検査で膣の中まで調べられたという。
出国時も気が抜けない
さらに売春目的であることをうまく隠して入国できたとしても、出国時に別室に呼び出され、スマホのGPSの記録から「あなたはずっと売春宿で滞在していただろう」と厳しく詰問された人もいる。
「審査は年々厳しさを増している印象で、今後も手を緩められることはないだろうと思います。過去に売春で捕まったことのある女性と一緒に撮った写真がインスタグラムで見つかっただけで、婚約者と一緒にハワイに渡航した際に入国拒否を受けた女性もおり、事態は深刻です」(佐藤さん)
取り調べは入国先の言語で行われるため、現地の言葉が話せないと、いくら潔白でもまともに反論すらできない。結果的に泣き寝入りするしかなく、渡航費を無駄にし、帰国を余儀なくされる例も出てきている。
一方、なかには売春と認定されて入国拒否になったことを知らずに、何度も入国を試みようとする女性もいるそうだ。その多くが「海外で稼げた」という経験がある、売春目的の女性だという。
「入国拒否になっても、その場では自分がどの条例が適用されて入国できないのかがわからない例が少なくありません。英語が話せないとなると、なおさら理解するのが難しい。入国できる可能性は限りなくゼロに近いと知らず、弁護士や行政書士に高額な報酬を払ってでも入国を試みようとする。向こうで稼げたという経験があると、また行きたいという気持ちがどうしても抜けないのでしょう」(佐藤さん)
出稼ぎ売春は「未来永劫、入国ができなくなるリスク」も
そもそも、売春目的での入国が違法行為と知らずに入国しようとする女性もいる。そういう人は別室に呼ばれると、何が起きているのかわからないとなるケースも一定数あるという。入国審査で弾かれやすいと知らず、エスタ申請時の職業欄にキャバクラなどの夜職を記入する人もいる。
「基本的に、物価や賃金が高い国側から見れば、それらが低い国からの入国は、不法就労をする可能性があると認識されます。そして売春の場合、ただの不法就労よりも重い犯罪と見なされる。未来永劫、入国ができなくなるリスクがあることをわかったうえで渡航している人は少ない印象です」(ビザ問題に詳しい弁護士の上野潤さん)
違法行為だと知っている人も、仮に海外で検挙されたとして、自分の人生にそこまで大きな影響を及ぼすとは考えていないようだ。
海外出稼ぎに行く女性たちに話を聞いても、「最悪、売春だと認定されて入国拒否になったとしても、入国できない期間が設けられるだけで、そこまで大きなペナルティだと思わない」「海外で逮捕されたとしても、日本での生活に直接的に影響があるわけじゃないから」と楽観的だ。
売春目的で個人で渡航する女性たちからは、「エージェントなどを介して組織的に渡航するほうが検挙されやすいはず。入国審査官も暇じゃないし、個人レベルの動きにそこまで注視しないと思う」といった声も聞かれる。
入国審査時に突っ込まれても大丈夫なように、対策は入念にする。それでも運が悪いと捕まる可能性がある。だがそればっかりは仕方がない、神のみぞ知る、という感じなのだ。

