イギリスを代表するクロージングデザイナー、マーガレット・ハウエル。時代を超えて愛される彼女のデザインは、シンプルでありながら凛とした存在感を放つ。今回はロンドンの自宅を訪ね、日々の暮らしについて、なかでも彼女が毎日立つキッチンと長年寄り添う道具について話を聞いた。
この記事は前編です。後編はこちらから。

〝暮らしの記憶〞を繋ぐ道具に囲まれた、自分だけの居場所。
「家の中でもキッチンとバスルームが特に好き。いちばん〝使う〞場所だから」。2018年、本誌でサフォーク州にあるマーガレット・ハウエルのセカンドハウスを訪ねたとき、彼女はそんなふうに教えてくれた。そのとき見せてくれたキッチンは、ミニマルで機能的。リビングとの間を仕切る壁は真ん中が大きく開いていたので、ほぼオープンキッチンのようなつくりだった。3人ほど入れば身動きが取れなくなるほどの小さな空間だったが、マーガレットは「料理をするには十分」と語り、動線が考え尽くされたキッチンは調理に欠かせないシンクとガス台、冷蔵庫、調理道具、調味料、食器がまるでパズルのピースのようにぴたりと収まった、美しく、見事な空間だった。


開放感と動線を重視した ロンドンのキッチン。
今回、訪ねたのはロンドン市内にある自宅。閑静な住宅街にある住まいはマーガレットが日々過ごしている場所だ。ヴィクトリア朝時代に建てられた建物は、かつての馬車小屋で馬車を収容するために屋敷に併設された〝コーチハウス〞を改装したもの。見学するまではあまり気乗りしなかったそうだが、実際に訪れてみると大きな窓から望む庭の木々の緑や差し込む光の美しさに惹かれて、すぐに「ここが自分にとっての家だ」と確信したという。装飾の多かった内装は、イギリスの『マーガレット・ハウエル』の店舗デザインを手がけた建築家のウィリアム・ラッセルに依頼し、シンプルでモダンな空間にリノベーションした。
「元々、キッチンとリビングの間にはアーチ型の壁があったので、どこかキッチンが〝閉じられた場所〞だなと感じたことを記憶しています。ここは風が通るような大きな空間にしたかったので、壁を取り払い、光が届くような設計を依頼しました」
そうして、リビングダイニングから続く形で、一角をオープンキッチンにした。作業台の天板には、廃校になった学校からサルベーションされたイロコという堅牢な木材を用いるなど、部分的に廃材を取り入れ、凛としたミニマルな空間に味わいのあるキッチンを同居させた。
「すべて新しいもので揃えることには興味がないんです。インテリア雑誌に出てくるような、ピカピカの豪華なキッチンより、私は使い手の個性が感じられるほうがいい」


料理も好きで、仕事やディナーの約束がなければ基本的に毎日作る。
「散歩やサイクリング、水泳など、アクティブで健康的な生活をしたいので、食事もどんな食材を使うか、メニューを考えたり、作ったり。もちろん食べることも大好きです」
キッチンでは、冷蔵庫から食材を取り出し、洗い、切り、火を入れるー。日々の小さな所作が重なる場所だからこそ、動きやすい動線をつくりの面で意識したという。
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マーガレット・ハウエル
1970年、自宅を拠点に製作をスタート。服は一時的なトレンドではなく、考え抜かれた生活の一部として、素材、つくり、スタイルを大切にする。メンズ、ウィメンズのウェア、ホームプロダクツも手がけ、ヨーロッパや日本全国にショップを展開。
photo : Yuki Sugiura edit & text : Chizuru Atsuta
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COOKING LOVERS’ KITCHENS / 料理好きの台所。&Premium No. 145
かつて住まいの裏方であった台所は、いまや家づくりの軸となる、暮らしの中心にある存在になりつつあります。いい台所は、使い勝手のいい台所。使う人が自分自身の勝手にあわせて工夫をするのです。そして自分の勝手というのは、繰り返し料理をする中ではじめて見えてくるものですから、心地のよい台所の持ち主は、すなわち 料理好きであるといえるのではないでしょうか。今号の特集は「料理好きの台所」。手をかけ、使い込んだ台所からは、その人が楽しげに腕を振るう姿や、豊かな食卓や暮らしそのものが透けて見えるようです。すべてのものを取り出しやすくしている人、スッキリ何もない空間で料理に励む人、菜箸や布巾ひとつまでこだわって選ぶ人。工夫とアイデアに溢れ、すみずみにまで目の行き届いた、16組の料理好きのみなさんの台所を拝見します。
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