試合前のミーティングでのこと。対戦相手である巨人のスタメンオーダーを並べてみせると、自軍の選手たちは「『毎日がオールスター』みたいな打線だなあ……」と話していたという。
※本記事は、江本孟紀著『長嶋亡きあとの巨人軍』より適宜抜粋したものです。

◆長嶋さんのもとにいい選手が集まる理由
弱気になっている選手に対して、野村さんは「大したことない」と喝を入れたそうだ。「『巨人がすごいと考えるんじゃない。同じプロ野球選手同士で試合をするんだから、自信を持つんだ』と。ときには励ましもした。でも、あの手この手で選手の気持ちを盛り上げようとしても、長嶋の巨人と対戦する前は、みんな怖気づいていたな。どうやったら恐怖心を取り除けるのか、オレはそのことばかり考えていたんだよ。たしかに『よくこれだけの選手が集められたな』と、オレも認めざるを得なかった。どうして長嶋のもとには、こんなにいい選手ばかりが集まるのかなって、不思議に思うよ」
こんなことを野村さんは話していた。野村さんに限った話でなく、巨人を除く11球団の監督、もっといえば大勢のプロ野球ファンが抱いていた疑問かもしれない。
だが、私は気づいていた。
「監督が長嶋さんだから」
これが答えなのだ。
もっと掘り下げていえば、「長嶋さんが監督として率いている巨人」であることが重要なのだ。野球の神様である長嶋さんに引き寄せられるような形で、ほかのチームから優秀な選手が次々と集まってくる。つまり巨人ブランドよりも、「長嶋ブランド」の魅力のほうが上回っているというわけだ。
長嶋さんのもとにスター選手が集まるという現象については、野村さんもうすうす気づいていたのはないか。ただ、長嶋さんに対する嫉妬心から、あえて知らないフリをしていたとしてもおかしくない。
◆巨人に移籍したら「裏切り者」扱い
一部の野球ファンの間から、「金満球団」のレッテルを貼られていた当時の巨人。「巨人にばかり選手が集まるなんて許せない」との反発の声も多かった。そして「このままでは巨人一辺倒で、プロ野球がつまらなくなってしまう」といった趣旨の危機感を持った人たちが、巨人という特権的な存在に異議を唱えだした。露骨なまでに「アンチ巨人」として振る舞う野球ファンが現れたのだ。
一例を挙げると、応援するチームから巨人に移籍していく場合は「裏切り者」扱い。次々と大物選手を獲得する巨人の行動を「強奪」と呼んでいた。巨人が負けると、「ざまあみろ」「それみたことか」と留飲を下げる。私の印象では、1996年に清原が移籍したあたりから徐々に目立つようになり、99年オフに工藤と江藤を両獲りしたときにはピークを迎えていた。
アンチ巨人の筆頭格が阪神ファンである。彼らは何かにつけて巨人を目の敵にしている。とくに大阪の阪神ファンにはそれが顕著に表れていて、巨人のことはもちろん、東京の巨人ファンに対しても強烈な対抗心を燃やしている。
もっとも巨人や東京の巨人ファンは、阪神や大阪に対してライバル意識など持っていない。阪神ファンを中心としたアンチ巨人の人たちからすると、むしろ勝っても負けても淡々としている姿こそ、火に油を注いでいるのではないだろうか。

