
冬の野菜、大根。
大根は一年を通して手に取りやすい野菜だが、冬にいちばんおいしくなる。
寒くなるにつれ、甘みを増し、水分をたっぷりと蓄えていく。ハリが出て、みずみずしくなる。 まるで、冬を越す準備をしているかのよう。
そんな大根を、この季節こそ、たっぷりと使いたい。
ここで、大根にまつわる思い出を話してから鍋の紹介をしようと思う。
私が懐石料理店で修行していた頃、 お造りや和え物用に、毎日大量の大根をおろしていた。 なかなか根気のいる作業だった。
当時、先輩から「繊維を断つように、円を描くようにおろすんだよ」 と指示されたことがある。「角を潰すイメージでおろした方が、ずっと効率よく早いじゃん! 」、そう思った私は、きっと腑に落ちない顔をしていたのだろう。すると先輩は、 「ふわふわの大根おろしを目指そう」 と教えてくれた。
半信半疑だったが、言われた通りにやってみると、 空気をたっぷり含んだ、ふわっふわの大根おろしができた。 それは、今までなんとなく作っていたものとは、まったく違うものだった。
料理は、大根おろしひとつを取っても、
ほんの少しの工夫で、こんなにも違うものができあがる。
そのことを体感した出来事だった。
以来、ふわっふわの大根おろしを作ることを目指している。名付けて「雪おろし」。

今回紹介するのは、 二種類の大根おろしと、酒粕を使ったひと鍋。 きめ細かいふわっふわな雪おろしと、 ごろごろ食感が楽しい鬼おろし。 口当たりの違う大根おろしを二種類用意するのが、この鍋の面白さ。 大根の甘みが、だしにたっぷりと加わり、寒い時季に体を芯から温める。


雪おろしを作るコツは、まず大根をおろし金に直角に当てること。
大根の繊維は、まっすぐ縦に走っているので、その繊維を横方向に丁寧に断ち切っていくイメージで。 そのうえで、円を描くようにおろす。空気を含ませることができるので、エアリーな食感になる。
大根は少し長めに切り、さらに縦半分や4等分に切ると、握りやすい。そうすることで、軽い力でもすりおろしやすくなる。
道具は、目の細かいおろし金を使いたい。よりきめ細かくおろせるので、口当たりの柔らかさが格段に変わる。

一方、鬼おろしは、 写真のような鬼おろし用のおろし器で、ガリガリと大根を削る。 不揃いな粒になることが狙い。
酒粕は、なるべく、すっと軽い味わいのものを選びたい。 寒くなると、体に取り入れたい食材のひとつでもある。 酒蔵が近くにある方は、酒粕を求めて蔵を訪ねるのも一興。
私が営む『KOMB』では、日頃からお世話になっている酒蔵から酒粕を取り寄せ、料理に使っている。今回選んだのは、「手取川」をはじめ、澄んだ味わいの日本酒を造る石川県にある吉田蔵の酒粕だ。酒蔵ごとに酒の個性が異なるように、酒粕もまた、風味やコクにそれぞれ違いがある。
汁物に使ったり、いくらの酒粕和えにしたり、魚を漬けて焼いたり。『KOMB』では、料理に合わせて酒粕を使い分けている。
まずは、自分が「あっ、おいしい」と自然に感じる酒粕を1つ、見つけてみよう。
この鍋では、 おろし方を変えるだけで、大根がまったく別物になることを、楽しんでみてほしい。
きめ細かくおろしたものは、舌の上ですっとほどけ、粗くおろしたものは、噛むほどにみずみずしさが広がる。
同じ大根おろしとは思えない、口当たりのコントラスト。
その対比が、この鍋のいちばんの魅力だ。レシピはこちら。
recipe
2種類の大根おろしと酒粕の鍋

【材料(3人前)】
・雪おろし… 200g
・鬼おろし…100g
※雪おろしのほうが多いのがポイント
・セリなどの青菜
・豚しゃぶ肉…お好みの量
・鰹・昆布だし…2L
・酒粕…30〜40g
・薄口醤油…大さじ1
・塩…2つまみ
・鍋用ぽん酢
・柚子胡椒、柚子七味





和食レストラン兼アトリエ『KOMB』 シェフ&オーナー 原田アンナベル聖子

はらだ・あんなべる・せいこ/2022年、東京・神楽坂に和食レストラン兼アトリエ『KOMB』を起業。「四季の移ろいを大切にする」というブランドコンセプトを体現すべく、多岐に事業を手がけている。自身が料理人として厨房に立つ傍ら、料理教室や瓶詰めの自社EC事業、ファッションブランドのケータリングプロデュースなど行う。

