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JR東日本、民営化後初の運賃改定…都心部では「2割」上昇も? 値上げせざるを得ない“切実な”事情とは

JR東日本、民営化後初の運賃改定…都心部では「2割」上昇も? 値上げせざるを得ない“切実な”事情とは

今年3月16日、JR東日本は民営化後初となる運賃値上げを実施する(消費増税、バリアフリー料金導入に伴う改定を除く)。

平均改定率(値上げ率)は7.1%だが、これまで「幹線(基本となる運賃)」より割引率が大きかった「電車特定区間」「山手線内」の区分を廃止するため、都心部では値上がり率がさらに高くなる。

今回の値上げの背景には、普段利用者が意識することのない日本の鉄道運賃をめぐるルールと、30年にわたるデフレ経済の終焉がある。(鉄道ライター・枝久保達也)

都心部では2割値上げも…

JR東日本の運賃値上げを具体的に見ていく(下記金額はいずれも普通乗車券使用時、ICカード乗車券の場合は異なる)。

たとえば「幹線」の東京~小山間(80.9km)は1520円から1600円へ5.3%値上げだが、「電車特定区間」の東京~赤羽間(13.2km)は230円から260円へ13%値上げ。さらに「山手線内」の東京~新宿間(10.3km)は210円から260円へ23.8%の値上げとなる。

あわせて通勤定期についても6か月券の割引率を縮小するなど平均12%の値上げとした。

JR東日本は輸送量に占める定期利用の割合がJR各社で最も高いため、コロナ禍以降の通勤需要減少の影響が特に大きかった。一方、通勤定期券の割引率は、国鉄運賃法(1987年に廃止)が1か月券及び3か月券は50%以上、6か月券は60%以上としていた名残で、大手私鉄と比べて高いままだった。

通勤輸送の比重が大きい路線は経営効率が悪い。たとえば朝ラッシュに5分間隔で運行するのに必要な車両が20編成だとすると、日中10分間隔に必要なのは10編成、つまり保有資産の半分は朝しか使わないのである。通勤輸送の収支改善はJR東日本にとって急務であった。

鉄道会社を縛る「総括原価方式」

鉄道事業はその公益性から事業者の判断で値上げはできず、運賃改定には鉄道事業法(16条)に基づく国土交通大臣による審査と認可が必要である。

同条2項は鉄道事業者が運賃を変更する際には、国土交通大臣が「(運賃が)能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであるかどうかを審査」すると定めている。

こうした「総収入」と「総括原価」を均衡させる仕組みを「総括原価方式」といい、電力や水道など公益事業で広く用いられている。

原価は人件費、修繕費など直接的な経費だけでなく、諸税や減価償却費、支払利息、配当金など経営に必要なすべての支出を含む。事業者はコストと利潤を運賃に反映できるため赤字にはならないが、必要以上の利益は認められない。

では、鉄道会社は鉄道で利益を出せないのか。実はこれは難しい問いである。

JR東日本は2024年度に運輸セグメント(ほぼ鉄道が占める)で1760億円の営業利益を計上している。一見、十分な利益をあげているように見えるが、「営業費」は「総括原価」とは異なるため比較できない。

一方で認可時は総収入と総括原価が均衡していても、増収や経費削減によって利益が生じることもある。この場合、値下げにはならず、営業努力の成果として事業者の利益となる。また総括原価は鉄道のみの計算で関連事業の利益は含まれない。

1987年以来「改定なし」が“崩れた”要因は

冒頭にJR東日本の運賃改定は民営化以来初と書いたが、実は大手私鉄も1990年代後半以降、ほとんど運賃改定を行わなかった。

これは30年に及ぶデフレ経済と超低金利政策で原価の伸びが抑えられた一方、2000年代以降の都心回帰で総収入が増加したため利益が積み上がり、改定の必要がなかったからだ。

それが崩れたのがコロナ禍だ。JR東日本の2024年度の旅客運賃収入を2018年度と比較すると、新幹線は138億円(2.3%減)、在来線定期は770億円(16%減)の減収で、在来線定期外こそ29億円(0.4%増)の増収だったが、トータルで879億円(4.7%減)の減収となった。

この間の2019年10月1日に消費税率の改定に伴う平均1.852%の運賃値上げを行っているため、実際の減収率はそれ以上である。

879億円は小さい数字でないとしても、4.7%の減収で一気に運賃値上げが必要な状況に追い込まれることを不思議に思うかもしれない。しかし、鉄道事業は固定費の割合が高いため、損益分岐点を下回れば一気に減益となる。

今回の運賃改定でJR東日本は、年881億円の増収を見込んでおり、減収分を穴埋めする形になる。

鉄道事業者「物価高騰も運賃に反映すべき」

コロナ禍以降、JR北海道、JR四国、JR九州の3社、大手私鉄では東急電鉄、近畿日本鉄道など7社が運賃を値上げしており、JR東日本のほか、西武鉄道も2026年3月の値上げを予定している。

コロナ禍を直接起因とする値上げは一巡した印象を受けるが、今後の議論はインフレを反映した値上げに移っていきそうだ。前述のように運賃改定は総収入が総括原価を下回るまで、言い換えれば、利益を食いつぶすまで申請できない。

そこでJR東海やJR西日本は必要な設備投資を安定的・継続的に実施するため、物価高騰、人件費上昇を運賃に反映できるようにすべきと主張している。インフレが長期的傾向になるとみられる中、鉄道事業者はジリ貧に追い込まれることを恐れている。

およそ40年にわたり「機能停止」していた運賃制度はコロナ禍とインフレで再始動した。国土交通省は2024年4月に「収入原価算定要領」を改定し、設備投資や賃金アップを促進できるよう総括原価の算定方法を見直したが、小手先の対応という印象は否めない。

人口減少に直面する鉄道事業をどのように維持していくのか、国と事業者だけでなく、利用者が参加する議論が求められる。

■枝久保達也
1982年、埼玉県生まれ。東京メトロで広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして活動する傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心に鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。近著に『JR東日本 脱・鉄道の成長戦略』(2024年 KAWADE夢新書)。

配信元: 弁護士JP

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