
厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況」」によると、日本では同居20年以上の「熟年離婚」が、統計のある1947年以降で過去最高を更新し続けているそうです。一方、一般的には“明らかな離婚理由”となりそうな事実が判明しても、離婚を選択しない人もいます。今回は朝日新聞取材班による著書『ルポ 熟年離婚』(朝日新聞出版)より、夫の浮気が発覚したにもかかわらず「離婚する気はありません」と言い切る女性の事例を紹介します。
夫のスマートフォンを盗み見ると…
スマートフォンを盗み見ると「マル秘」の印が押された夫の調査報告書を手に入れたことで、東京都内に住む妻(60)は夫(61)から自由になった。「それまで自分の人生を生きたことがなかった」と、いまは思える。
探偵事務所に夫の調査を依頼したのは3年前のことだ。日ごろからお茶や食事をする十人ほどの友人のうち、六人が夫の浮気を経験していた。「まさか、うちの夫に限って……」人ごとのように聞いていたが、夫が隠し持っていたクレジットカードの明細書を見つけ、胸がざわついた。
1回10万円以上もする高級クラブでの飲食、20万円もする女性用の高級バッグなどを買った明細が残っていた。夫が風呂に入っている隙に、スマートフォンを盗み見ると、これまでなかったロックがかかっていた。暗証番号をどうにか割り出し、LINEを見ると、見知らぬ女性と親密なやり取りをしていた。
翌日の午後6時、その女性と食事をするために渋谷で待ち合わせていることが分かった。かつて夫の浮気調査を依頼した友人から探偵事務所を紹介してもらい、「特急」扱いでその女性の身元調査を即日依頼した。調査費は60万円と安くなかったが、証拠を押さえ、浮気相手に慰謝料を請求し、夫と別れてもらいたい一心で支払った。
手元に届いた報告書には、当日の夫の行動がしっかりと記録されていた。午後5時50分、夫のベンツが渋谷の複合施設の地下駐車場へ滑り込んだ。午後6時過ぎ、待ち合わせ場所と思われる1階のカフェに現れたのは若い女性。7時前、二人は六本木のイタリアンレストランに移動した。ワインを片手に親密そうに食事をしている二人の写真と動画が添えられていた。
写真の女性はスラリと背が高く、アイドル歌手のような容姿で目立っていた。店を出た後、女性はコンビニに寄って一人でタクシーに乗り、都内のマンションへ帰宅した。妻は探偵事務所が突きとめた女性宅に出向き、ポストを確認。
さらに身元を調べると、モデル事務所に所属してタレント活動をするかたわら、夜は銀座のクラブでホステスのアルバイトをしていたことが分かった。夫とは銀座の店で知り合ったようだ。
娘より年下の女性と関係を持つ夫
その女性が長女(28)より一つ年下と知ったとき、情けなさや悔しさで涙がこぼれた。
夫と結婚したのは33年前。夫は大学の同級生だ。大恋愛の末、就職後に結婚。長男(30)と長女を授かった。長男を妊娠後、妻は会社を辞め、専業主婦になった。夫は不動産会社の会社員として約20年働いた後、43歳で独立した。
当初は赤字続きで自転車操業。従業員も雇えず、女性が役員となって経理などの事務を引き受けた。起業後、夫は朝から晩まで働き、夕食も必ず家で食べていた。どんなに夜遅くとも必ず、レンジで温める出来合いのものではなく、手料理を作っていた。品数が少ないと「これだけか」と怒られ、追加した。
不動産市況が上向いたことで、夫の会社は2019年ごろから最高益を更新するようになった。子どもたちも大学を卒業して社会人となり、学費の支払いからも解放された。「俺はこれから遊ぶぞ」と夫は言い、金遣いが荒くなった。銀座のクラブに通い、女性に高級バッグやアクセサリーを貢ぐようになっていった。
妻は、探偵事務所の調査報告書を夫に突きつけ、「会うのをやめて」と夫に迫った。夫とは別れたいとは思わなかった。夫は「もう会わない」と約束した。
しかし、女性と会い続け、つらい日々が続いた。妻は、弁護士や離婚カウンセラーに相談し、これからの人生で経済的、精神的に何が自分にとってベストな選択なのかを考えた。まず、離婚を選択した場合はどうなるのか。
弁護士に聞くと、浮気の慰謝料の相場は300万円前後。子どもは独立しているので養育費は入らない。持ち家は売却すれば半額もらえる権利はあるが、残っているローンを差し引くと、まとまったお金にはならない。夫が会社員時代に納めた厚生年金の分割制度はあるものの、それではカツカツの生活だ。さらに妻は夫の会社の役員を務めているため、離婚すれば役員報酬を失う。
悩んだ末、妻は結論を出した。意を決して夫に切り出した。
「もうあなたの食事を作りたくないし、洗濯もしたくない。別居したい」夫にとっては意外な申し出だったようだ。「別居すると金がかかる」と難色を示したが、会社近くの賃貸マンションを妻が探し、自宅から出て行ってもらった。
