東京は、新陳代謝が激しい都市だ。
江戸と呼ばれた時代も含めれば、400年以上もの歴史をもつ都市だが、古い建物は決して多くはない。
その理由として、明治維新や関東大震災、そして第二次世界大戦の空襲による被害で多くの建物が失われたからだ、などとよく言われる。ただ、そもそも、そのような政治的動乱や災禍がなかろうとも、日本の建物の寿命は欧米に比べると圧倒的に短い。木造だろうとRC造だろうと、築50年を待たずして建て替わることが多い。その背景には、日本人は新築を好む傾向が強く、建物の資産価値が築年数とともに下がっていくという、日本特有の事情があるのだという。
とくに都心部では、いつもどこかで大規模な再開発が進行中だ。区画一帯がごそっと建て替わり、数年前までいったい何が建っていたのか思い出せない、ということもしばしば経験する。



そのせいか、東京生まれ・東京育ちの私は、小さい頃から東京の歴史には全くといっていいほど興味がなく、世界遺産などの番組を見ては、時が止まったかのような、海外のいわゆる歴史的な街並みに憧れてばかりいた。
けれど、憧れの街を訪れ、留学なども経験するうちに、雑多で全容の捉えづらい東京という街を、かえっておもしろいと思うようになった。おかげで、おもに東京の建築や都市の歴史を専門とする「建築史家」というマイナーな職業になってしまったほどである。
古い建物が多くは残されていないからこそ、新しい街並みのなかに、思いがけず取り残されたような建物を見つけると、とても嬉しくなる。失われた建物のわずかな痕跡を発見し、これは一体何だったのだろうと頭をひねるのも一興だ。歴史的な景観がしっかりと保存されている都市はたしかに魅力的だけれど、新旧が入り混じった東京には、それらとは一味違う楽しみ方があるように感じている。
今回の連載では、そんな目まぐるしく変化する東京で、歴史に思いを馳せることができる(少しマニアックな)都市空間を紹介していきたい。
建築史家 長谷川 香

はせがわ・かおり/1985年東京生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院博士課程修了。博士(工学)。一級建築士。文化庁国立近現代建築資料館研究補佐員、東京理科大学理工学部建築学科助教を経て、現在、東京藝術大学美術学部建築科准教授。主な著書に『近代天皇制と東京』(東京大学出版会、2020年)、『新建築 建築100年』part1・2(加藤耕一・坂牛卓・権藤智之と共同監修、2025年)など。

