
「味の素」といえば、万能調味料や冷凍食品を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、世界のハイテク業界において、味の素はまったく別の顔を持っている。味の素は調味料で世界シェアを拡大する一方、パソコンやスマホ、車などに欠かせないCPUの材料を製造しており、その世界シェアほぼ100%という驚異的な独占状態を築いている。田宮寛之氏の著書『日本人が知らない!! 世界シェアNo.1のすごい日本企業』(プレジデント社)より、味の素が半導体材料を手がける理由と、成長を続ける同社の強さに迫る。
半導体材料で世界シェアを独占する「味の素〈2802〉」
会社データ
・本社……東京都中央区
・売上高……1兆5305億円
・純利益……702億円
・資本金……798億円
・創業年……1909年
・従業員数……34860人
・上場市場……東証プライム
(業績は2025年3月期)
味の素といえば、多くの人が思い浮かべるのが調味料の「味の素」だろう。カップスープや冷凍ギョーザなどの食品類を思い浮かべる人もいるだろうが、アミノ酸の技術に秀でていることでも有名だ。しかし、味の素が半導体生産で極めて重要な企業であることは、あまり知られていない。
調味料の副産物から生まれた「絶縁体」が、世界中のCPUで採用
味の素はパソコンの心臓部である高性能半導体(CPU)に使用する絶縁材を製造しており、その世界シェアがほぼ100%なのだ。絶縁体とは必要とする回路以外に電気が流れるのを防ぐフィルムであり、製品名はABF(味の素ビルドアップフィルム)という。
1990年代、パソコンはMS-DOSからウインドウズの時代へと移行し、CPUの高集積化が求められるようになった。小さなスペースに複雑な回路やパーツが詰め込まれるようになったわけだ。
以前は刷毛で半導体に液体の絶縁材料を塗っていたのだが、表面に気泡が生じる、塗りむらが出る、ゴミが付着するといった問題があり、高集積化されたCPU製造の障害となっていた。また、液体の絶縁材料は揮発性があり作業員の健康にも悪影響があった。
こうした状況の中、味の素はフィルム状の絶縁材料の開発に着手した。食品メーカーが半導体材料を開発というのは違和感があるかもしれないが、じつはABFの原料は調味料「味の素」をつくる過程でできる副産物なのだ。ABFは表面の平滑性、CPUの発熱に適応する耐熱性、そして加工のしやすさなどにすぐれており、1999年に大手半導体メーカーに採用されて以来、世界中のCPUに採用され続けている。
同社のABFはパソコンだけでなく、自動車やスマホ、ゲーム機などのCPUにも使用されている。2021年には「プレイステーション5の販売が遅れたのは、味の素のABFの生産が追い付かないからだ」との報道があった。
味の素はこの報道を否定したが、こうしたニュースが流れるということが、ABFの半導体市場への影響力の強さを物語る。韓国のサムスンがABFのような絶縁体の開発に着手したが、うまくいかずに撤退したとの噂もある。
今後は半導体の高集積化の進行でABFの継続的な需要拡大が見込める。特に生成AI向けは従来よりもABFの使用量が増加するので、味の素にとっては好環境が継続する。
国内最大手の調味料は「イスラム圏」でも高シェア
味の素は1909年に調味料「味の素」の販売を開始し、現在は調味料の国内最大手。調味料と一口にいっても実際は、ドレッシング、和風だしの素、オイスターソースなどさまざまなものをそろえている。そのほか、冷凍食品、サプリメント、化粧品、医薬用アミノ酸、医薬中間体など事業領域は多彩だ。
海外展開にも熱心で1910年には台湾での販売を開始した。現在では世界26の国と地域に拠点を持ち、130以上の国と地域に商品を届け、売上の約6割を海外事業で稼ぎ出している。そして特筆すべきは、イスラム法に適合していると承認された商品のみが表示できるハラル認証を取得しており、イスラム圏で存在感があること。
インドネシアの「Masako」、マレーシアの「TUMIX」も同社製
1969年にインドネシアで現地法人を設立し、1998年にハラル認証を取得した。経済発展にともなってインドネシアの調味料市場は成長が続いている。同社の調味料「Masako」は汎用調味料としてスープや炒め物などに幅広く使用されており、同国内の市場シェアは60%強を誇る。インドネシアで定番調味料といえば、味の素の「Masako」なのだ。
またマレーシアでは1961年から調味料、スープ、甘味料などの事業を展開している。日本でも普及している調味料「味の素」は現地でも人気商品だが、マレー料理に合う調味料「TUMIX」も広く普及していて、同社のマレー事業の柱となっている。
人口増加の見込めるイスラム圏で高いシェアを占めていることは、今後の同社の成長に大きく寄与するだろう。
田宮 寛之
東洋経済新報社
編集局編集委員
