
ニューヨークでは「経験がない人のほうが少数派なのでは?」と思えるほど、“解雇”が日常の一部として受け止められているといいます。本稿は、ニューヨーク在住23年目のファッション/テクニカルデザイナー・あっち氏の著書『ニューヨークとファッションの世界で学んだ 「ありのままを好きになる」自信の磨き方』(KADOKAWA)より一部抜粋・再編集して、米国の解雇事情と働く際の心構えをご紹介します。
アメリカにおける「解雇」は2種類
日本では「解雇された」と聞くと、「仕事で不祥事を起こしたのかな?」「職場での評判が悪かったのかな?」などネガティブなイメージを抱く方も少なくないように思えます。
アメリカでの解雇には2種類あります。
ひとつは、雇われる側のパフォーマンスや行動に問題がある場合。英語ではfiring(ファイヤリング)といいます。日本語でいう、いわゆる「クビ」です。
もうひとつは、企業側の経済的理由による解雇で、日本の「リストラ」に相当します。英語ではこれをlayoff(レイオフ)といいます。
米国では、レイオフによる解雇は「誰にでも起こりうる現実」です。実際、ニューヨークで長年働いていると「解雇された経験がない人のほうが少数派なのでは?」と思えるほど、日常の一部として受け止められています。事実、私もダナ・キャラン・ニューヨーク時代に、このレイオフを経験しました。
企業側の事情もさまざまです。投資家の交代やリストラ、関税政策の影響、AIの進化による業務の自動化など、個人の努力ではコントロールできない理由で職を失うケースが多々あります。たとえば、トランプ政権下では関税の変更が引き金となり、物流や港湾、小売業界に大規模なレイオフが発生しました。最近では、小売店での盗難急増や治安悪化により店舗が潰れ、そのあおりで従業員が職を失うケースも目立っています。
レイオフはある日突然、会社側から言い渡されることが大半です。大量解雇の場合、ミーティングで一斉にお知らせされたり、メールで通知されたりすることも多いようですし、「3か月ごとに数人ずつ削減」など、解雇を段階的に進める企業もあるようです。
ちなみに私の場合は、比較的小規模の会社だったので上司の部屋に呼ばれると、そこに同席していた人事担当者にレイオフを言い渡されました。
ニューヨークという厳しい街で生き延びるには
突然の解雇は誰しもショッキングですが、やはり大きいのは「お金の不安」です。来月のカードの支払いをどうしよう。家賃は払えるかな。生活費は賄えるだろうか……。「貧すれば鈍する」というように、「お金がない」という不安から精神的な余裕を失ってしまうのは、想像に難くありません。
解雇という不測の事態に直面したとき、大きな心の支えとなるのが「備え」です。具体的には、普段から節約を心がけて出費を抑える。貯蓄や投資をする。副業をして、収入の柱を複数持つ。不動産などの不労所得を得るなどの選択肢があります。
解雇に限らず、病気や事故などで誰もが働けなくなることがあります。そうした不測の事態に備えて「6か月分の生活費」を貯蓄しておくことが一般的に推奨されていますが、「しばらく仕事がなくても生きていける自分」でいられるかどうかが、心の安定に大きく左右するのだと思います。
米国では、税制の見直しや規制強化など、政策の変更によって「昨日までうまくいっていたビジネスモデルが、今日から通用しない」といった事態に陥ることも多いです。ニューヨークでの民泊ビジネスもその一例です。2023年9月から民泊にまつわる規制が強化され、Airbnbや個人ホストが大きな打撃を受けました。
「企業の業績や情勢など、自分がコントロールできないことに執着しても仕方ない」「解雇されたからといって、自分の価値まで否定しない」――そう思えるようになるには、時間も経験も必要です。けれどあらかじめ準備しておくことで、心の余裕は確かに生まれます。
自分を責めすぎず、次に進める自分でいること。それが、ニューヨークという厳しい街で学んだしなやかな強さだと思います。
あっち
