◆薬物使用疑惑で参加者が退場…むしろ見せ場に
エピソード3が、ひときわ波乱づくめだった。なんと、ヤンボーが薬物使用疑惑で退学になってしまったのだ。大人になってから退学させられるという憂き目……。そもそも恋リアなのに薬物使用疑惑で参加者が退場するという流れが意味不明だし、恋愛以外の情報量が多すぎる。
また、そういう疑いがある者を退学させる倫理観はいいが、一方で「クスリを吸っていたのでは?」というヤンボーへの疑惑をそのまま放送してしまう番組の人権意識には疑問符がつく。彼は警察にマークされてしまわないだろうか? 『ラヴ上等』に倫理観があるのかないのか、よくわからない。
本来ならば番組存続さえ危うくなるはずのハプニングが、むしろ見せ場になってしまう『ラヴ上等』。やはり、ヤンキーたちを一つの箱に入れて高みの見物をする貴族感が同作にあるのは否定できない。
あと、この後の展開を考えるとヤンボーの退場はつくづく残念だった。参加者のなかで最も本物っぽく、それでいてセクシーで、『ラヴ上等』の顔的存在に据わっていたのは、まぎれもなく彼だったからだ。
◆“逮捕歴トーク”で打ち解け合う男女
ヤンボー退場後、転校生として参加したのは25歳のホスト「てんてん」である。途中参加組である彼は、おとさんを乗馬デートに誘った。このときの2人のやり取りは、『ラヴ上等』ならでは。乗馬しながら、こんな会話だった。
てんてん「捕まったりしたことあったの?」
おとさん「海外でね」
てんてん「すごいやん」
アイスブレイクは逮捕歴トークから。乗馬しながら懲役の話をする治安の悪さである。ここから、さらにトークは常軌を逸していった。
おとさん「グレたのは高校1、2年くらいのとき。レイプされたのがきっかけで」
てんてん「マジで? 僕、16のときに一回鑑別所に行って、そこから次は少年院」
女の子がレイプされた過去を告白したのに「マジで?」で済ませ、「僕は~」とあっさり自分の話をし始める流れはホラーだ。しかも、「水泳習ってたよ」くらいのテンションで「少年院入ってたよ」と口にする世界観。この界隈にはこの界隈のコミュニケーションがある。
◆「水はヤベえだろ」で『ラヴ上等』の世界観が成立
女性陣のほうでも1人の転校生が途中参加した。エピソード4から登場した27歳のショーダンサー「あも」だ。メンバーは彼女を迎え入れるべく、あもが働く六本木のクラブを訪れた。全員が客席で見守るなか、ショーダンサーとして取り組むパフォーマンスを披露したあも。
その最中、客席にあもが水を飛ばす演出があり、これがベイビーの逆鱗に触れてしまった。3回も水を飛ばされ、怒髪天を衝く勢いでブチギレるベイビー。あもが自己紹介のために近づいてきた途端、彼女は自分が飲んでいた氷入りのレモンサワーとコップをあもへ投げつけた。
そのまま店を後にするベイビー。心配して後を追ってきたメンバーに、彼女が怒りの表情で「水はヤベえだろ」と口走ったシーンは『ラヴ上等』随一の名場面である。
たしかに、ショーダンサーの尻や素足が浸かった濁り色の水をかけられたら不快になる人もいるだろう。そんな思いから発せられた「水はヤベえだろ」。この怒りの一言に対し、スタジオにいるMC・永野が被せた「グレムリンかよ」という指摘は大正解すぎる。
さらにすごかったのは、「水はヤベえだろ」の後にベイビーが口にした「水きめえだろ」という言葉だ。水をかけられたのは嫌かもしれないが、「水がキモい」という世界線はまったく理解不能。水に罪はないのに「水はきめえ」と乱暴にキメウチしてしまうあたり、とことん『ラヴ上等』的だ。
そして、その後に続く「水かけてくる奴、一番嫌いなんだよ」というぼやきは、我々にはまったく意味がわからない。聞いたことのない吐露である。
◆炎属性のヤンキーに水は厳禁
作品全体を考えるうえでも、エピソード4はターニングポイントだった。男性陣に比べてヤンキー感が足りていなかった、それまでの女性陣。しかし、おっとりキャラだったベイビーも、実はしっかりヤンキーだった。それが、ここで明らかになった。『ラヴ上等』の世界観を成立させるうえで、非常に有益な覚醒だったと思う。あと、水をかけられた直後にあもへガンを飛ばすベイビーのにらみ顔は本当に美人だった。さすが、ヤンキー。炎属性のヤンキーに水は厳禁。だからこそ、このパンチラインは生まれたということ。
恋リアに沿った解釈をすると、それまでベイビーといい雰囲気だった27歳の男性「二世」があもを見た途端「かわいい」を連呼していたのもおもしろくなかったはず。ベイビーがマジギレした瞬間、隣にいた二世が「見てはいけないものを見てしまった」という表情をしていたのも見逃せない。
◆逆効果だった「体を擦り寄せるスキンシップ」
いつしか、あもに向かっている“モテ男”二世の矢印。そんな彼に一途なのがおとさんだ。好きというより「執着している」という言い方が合っているかもしれない。2人でサウナに入ったら体を擦り寄せ“いつでも抱ける感”を出し、一方的なスキンシップ(性的な)で男の気を引こうとするやり方が切ないのだ。
しかも、まだ付き合ってもいないのに「寂しかった。ほかの女の子を誘わないで」と泣きだすおとさん。見ているこっちのほうが苦しくなる。
ほかの恋リアと比べると、『ラヴ上等』は人とのつながり方を観察するだけで参加者の過去が見えやすい。過干渉の親に育てられたために“見捨てられる恐怖”と闘い、女性の武器を差し出して愛を手に入れようとするおとさん。「施設で育った」という過去の不幸を打ち明けて愛を手に入れようとするベイビー。
しかし、脈のない男に向けたボディタッチ系のアピールは逆効果だ。事実、体を擦り寄せてくるおとさんのことを、いつも二世は死んだ目で見ている。
◆用意した手紙から垣間見えた本来の姿
いいシーンがある。子ども食堂で社会奉仕活動をするイベントが用意されていた、羅武上等学園での2週間。このイベントの最終日に、おとさんは子ども食堂のオーナー・しょうこさんに向けた手紙を読み上げたのだ。そこに書かれていたのは、「私たちのような(タトゥーの入っている)見た目で元ヤンという経歴もあるにもかかわらず、大切な子どもたちを関わらせてくれたことに感謝します」という言葉だった。
手紙の節々から、おとさんが大人であり才女であることが垣間見える。二世の前以外では素敵な彼女。意中の相手に対しても、子ども食堂のときのような女性でいられたならばおとさんは強い。彼女の武器は、男にしなだれかかることではないと思うのだ。
◆“Z世代のヤンキー”が持つ意外な価値観
22歳のミルクは序盤からベイビーに一途だった。しかし、エピソード5あたりから彼の恋の炎は消え始めた。「今まで付き合った彼氏からは頼られてばかりだった。本当は私は弱音を吐きたいけど、ミルクには弱音を吐けない」と、現在の心境を告白したベイビー。彼女は年下のミルクに頼りがいのなさを感じたのだろう。その言葉を受け、ミルクの心境に変化が生じた。
「22の俺に『甘えたいんだよね』と言ってきて。いや、俺だよ甘えたいのは!」(ミルク)
さらにミルクの恋心が覚める要因に、子ども食堂で行われるイベントの準備中の一コマがあった。“職人”という自分との共通項を持つベイビーに心惹かれていたはずが、食堂内の壁を塗装する際にマスキングをしっかりやらず、「調色」という言葉を知らなかった彼女の仕事ぶりを目の当たりにし、憤るミルク。「本当に職人? あんな完成度で!?」と、ベイビーに幻滅し始めたのだ。
22歳のミルクには、「男らしい」「女らしい」という概念があまりない。だから、「おれがベイビーを守る!」というモードに入りにくい。あくまで対等なパートナーシップを求めているし、相手をリスペクトできるか否かがなにより重要。好きな人の仕事を見て気持ちが冷めていく過程が、たまらなくリアルだったのだ。
自分に振り向いてくれず、嫉妬の感情から“好き避け”になったという見方もたしかにできる。でも、異性に対する評価軸のベースが仕事への熱意だったために気持ちが揺れたという事実もきっとあったと思う。
いい価値観だ。ミルクはZ世代のヤンキーである。
◆昔ながらのヤンキー気質を持つ最年長が座長的存在に
ミルクとは違い、昔ながらのヤンキー気質を持つのがつーちゃんだ。事ある毎に「施設育ちだから愛されたことがない」と口にし、試し行動をしがちなベイビー。そんな彼女が素直な気持ちを吐露した。
「結婚しても不倫する人だっている。ならば、『最初から永遠なんて誓わなきゃいい』と思っちゃって。彼氏・彼女という形にならなくても、付き合う前の関係なら永遠の別れとかないし、変にお互いが期待して傷つくこともないのかなって」
こんなベイビーの苦悩に、つーちゃんが大人の言葉でアンサーした。
「でも、付き合ってみないと見せない顔、わからないことってあるからね。いいところもあるだろうし、悪いところも見るだろうし」
出会いは最悪だったはずのミルクでさえ、終盤では「信じられるのは塚原(つーちゃんの本名)だけっすよ」と口にしている。気づかないうちに、『ラヴ上等』の座長的存在へと躍り出ていたつーちゃん。
SNSを見ると、視聴者内でも男性陣の一番人気は彼だったらしい。恋愛は「イケメン」や「女子力」の勝負ではない。やはり、恋愛は「人間力」で決まる。
◆恋愛面が進むにつれて作品の魅力が減退
エピソード10は卒業式。北九州のド派手成人式ばりに登場する参加者一同の出で立ちには驚愕した。特に、これから盃を交わしにいくような恰好で現れたつーちゃんから目が離せない。ここで男性陣→女性陣への告白が行われたが、結果がどうなったかはぜひご自身の目でご確認いただきたい。
ただ、いかんせん2週間で恋をするというスケジュールは厳しかった。あきらかに恋愛スイッチがまだ入っていない者が数名いたからだ。あと数週もあればおとさんの新しい魅力が出ていただろうし、ミルクには別の展開もあったはずだ。
とはいえ、釈迦寝しながら一気に見てしまったのも事実。ヤンキーを一つの箱に入れるだけで名作になるのだから、『ラヴ上等』は企画力の勝利である。
ただし、おもしろさのピークはエピソード4(「水はヤベえだろ」)までだった。恋愛面が進んでいくにつれておもしろさが減退するという、不思議な現象が起きていたのは否定できない。ヤンボーの退場によりギスギス感が薄れて斬新な魅力が後退、次第に普通の恋リアっぽくなってしまった感がある。
ヤンキーやギャルは感情最優先かと思いきや、意外にくよくよ、なよなよすることもわかった。妙に行儀よく恋していたものだから、最終話あたりはヤンキーである必要性をほぼ感じなくなっていた。
加えて、「この2人を応援したい!」という推しが生まれず、恋リアではなくただのリアリティショーへと化していった感覚もある。参加者のバックグラウンドを掘り下げるイベントがもう少しあってもよかったか?
ちなみに、『ラヴ上等』はシーズン2も行われるようだ。今度の舞台は海になるらしい。今回は山奥で、次回は海。夏のほうがヤンキーは映えるし、海とヤンキーの相性は抜群。まさに、「水はヤベえだろ」だ。
シーズン2はヤベえだろ、となる神展開を期待したい。
<TEXT/寺西ジャジューカ>
【寺西ジャジューカ】
1978年、東京都生まれ。2008年よりフリーライターとして活動中。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレス、ドラマ評。『証言UWF 最後の真実』『証言UWF 完全崩壊の真実』『証言「橋本真也34歳 小川直也に負けたら即引退!」の真実』『証言1・4 橋本vs.小川 20年目の真実 』『証言 長州力 「革命戦士」の虚と実』(すべて宝島社)で執筆。

