14年前の9月、東京・六本木のクラブで飲食店経営の男性が金属バットで撲殺された。同じく金属バットによる襲撃で殺害された兄貴分の仇討ちだった—―。
ところが、犯行後の取り調べで「人違い」だったことが判明。当時、界隈でその名を轟かせていた半グレ集団の元リーダーが主犯格とされるが、事件直後に国外へ逃亡し逮捕を免れた。
国外逃亡前、共犯者に「俺は一生逃げるし、逃げ切れる自信がある。もう日本に未練はない」と口にしていたという。被害者があまりに不憫な事件のキーマンは今どこでなにをしているのか…。
※この記事は、『読んで震えろ!世界の未解決ミステリー』文庫版より一部抜粋・構成しています。
六本木クラブで2分ほど金属バットで殴打し殺害
2012年9月2日午前3時40分ごろ、東京都港区六本木のランドマークだったロアビル2階のクラブ「フラワー」に、目出し帽をかぶった10人ほどの男が乱入し、店内VIPルームで友人ら5人と飲食していた飲食店経営のFさん (当時23歳)を襲撃、1分~2分ほどにわたって金属バットなどで殴打し、死に至らしめた。
事件発生時、フラワー店内では音楽イベントが開催されており、大音量の中で200人から300人の客が居合わせたものの事件に気づく者はいなかった。
5日後の9月7日、防犯カメラの映像と容疑者らの写真を警視庁が公開。そこには犯人らが2日の午前2時40分ごろに2台のワゴン車に分乗し現場付近の路地に乗り付けた後、ロアビルへと入り、短時間で犯行を終え、再び車に分乗し逃走する姿が映っていた。
半グレ集団の関与を指摘する情報
この公開映像に対し半グレ集団「関東連合」元メンバーらの関与を指摘する情報が警察に寄せられる。
関東連合は世田谷区鳥山地域や杉並区の暴走族の連合体として1973年に結成され、渋谷、六本木、西麻布、新宿で勢力を誇り2003年に解散したが、その後もOB同士が上下関係に基づく強い絆で結束し、六本木周辺の暴力事件の関係者としてその名が登場。2010年11月には西麻布のバーで、歌舞伎俳優のIに大怪我を負わせ、全国的に知られるようになった。
犯行後の取り調べで判明した驚愕の事実
警視庁は2013年1月2日までに、犯行に関与したとして関東連合OBならびに関係者ら計18人を逮捕。この取り調べで驚愕の事実が判明する。一部容疑者がFさん殺害は「人違い」であったと供述したのだ。
なんでも、2008年に関東連合の元リーダー・見立真一の誕生日にあたる3月16日、関東連合OBのK(同30歳)が東京・西新宿の路上で金属バットで武装した集団に襲撃を受け、死亡する事件が発生。関東連合OBは、対立グループを率いる元暴力団幹部を犯人とみなし行方を追っており、その幹部と被害者のFさんの特徴(色黒、坊主頭)が似ていたことから勘違いして犯行に及んだのだという。
見立は本事件の主犯格でもあったが、事件直後に国外へ逃亡し逮捕を免れた。
主犯格は「残虐王子」として不良グループの世界で脅威に
見立は1979年3月、静岡県沼津市で生まれ、小学生時代に東京に転校した。ごく一般的な家庭で育ち、問題行動も皆無。むしろ勉強に熱心な少年だった。
が、中学2年のとき「ガリ勉見立」とバカにされたことに激怒し、同級生を階段から突き落とし大怪我を負わせ鑑別所送りに。そこから不良の道を歩き始めるようになる。
高校に首席入学後、地頭の良さを活かして、不良グループの世界でのし上がり、歯向かう者には徹底的な暴力で支配。周囲は見立のことを「残虐王子」と呼んだ。
その後、1970年代から1990年代前半に存在していた暴走族「ブラックエンペラー」を復活させるとともに、他の暴走族と徒党を組んだ関東連合の実質的なトップに君臨。無差別に人に襲いかかるなど、その凶暴性で恐れられた。
前述の2008年の事件で殺されたKのことは兄貴分と慕っており、その仇を打つため執拗に犯人を探していたものの、結局、殺害したのは別の男性。
被害者は複数の店舗を経営
ちなみに、人違いで撲殺された Fさんは長野県出身で、大学中退後、塗装関係の営業職、東京・高円寺のキャバクラのボーイを経て、複数のキャバクラ店舗を経営。事件当時は、東京・杉並区内でキャバクラを経営するとともに、渋谷区内でガールズバーと焼肉店を合わせた業態の店を営んでおり、フラワーの常連客だった。
2013年8月9日、東京地裁はFさんに対する傷害致死罪で起訴された9人に懲役8年~15年を言い渡した(2016年の最高裁判決で確定。一部減刑あり)。
一方、唯一逮捕を免れた見立容疑者は、フィリピン現地メディア『日刊まにら新聞』の報道によると、事件発生から1週間後の2012年9月9日、中国の首都北京からマニラ空港に到着。その5日後に韓国の首都ソウルへ向かい、約2か月後の11月上旬、今度はインドネシアの首都ジャカルタからフィリピンのマニラ空港へ向かったのだという。
警視庁は殺人や凶器準備集合などの疑いで見立を国際指名手配。見立の顔写真入りのポスター1万2000枚を作成するなどして情報提供を求め、2015年7月には、有力な情報の提供者に対し、最大600万円の懸賞金を支払うことを決定した。
2021年、関東連合元幹部で執筆活動も行っていた柴田大輔氏(執筆名は工藤明男。同年11月に死去)によれば、見立は国外逃亡前、共犯者に「俺は一生逃げるし、逃げ切れる自信がある。もう日本に未練はない」と口にしており、逃走時にはカンパで集められた約2億円が本人の手に渡っていたはずだという。
柴田氏の話では、見立はフィリピン中部に位置する観光地で、ダイビングスポットとしても有名なセブ島に潜伏している可能性が高いとのことだが、2026年1月現在も逮捕の報道は伝えられていない。

