ベースは節約・倹約、興味ある分野には惜しみなくお金を使う「メリハリ消費」
推し活にハマるサラさん(※1)と、ゲームや美容、脱毛に消費(課金)するハルキさん、そしてサ活に大金を使うソウタさん。3人の共通点は「モノ」にほとんどお金を使わないこと。
※1 山梨県のIT企業に勤めるサラさん(24)は、韓国のボーイズグループ「RIIZE(ライズ)」推し。「私の脳内って、『エブリタイムライズ』なんで」。彼女はライズのCDやグッズ購入、韓国でのイベントやライブ参加のための往復交通費、宿泊費などに「1年間で70、80万円かそれ以上使ってるはず」とのこと。実は取材の2か月前まで、1年ほど交際した彼氏がいたそうです。でも当時から「週に1回会えれば十分」という程度で、優先順位は明らかに低かった。
『Z世代の頭の中』(日本経済新聞出版)128ページより抜粋
唯一、推し活にハマるサラさんは、ライズのグッズを買い集めていますが、その彼女も洋服などには興味がない。「もしや、ショウタロウと目が合うかも」と期待するライブ参加のときだけ、新品のワンピースを身にまとい、ヘアメイクもプロにお願いする(1回8000円程度)といいます。
また彼ら3人に共通する、もう一つの傾向は、ハマった分野には惜しみなく消費する半面、興味がない、あるいは「節約したい」や「慎重に考えたい」とする分野では、とことん切り詰めたり、消費を躊躇したりすること。
今回の定量調査(※2)でも、節約系の「クーポン・ポイント・家計簿(アプリ)」を普段から利用しているとのZ世代が42.2%にのぼり、そこに男女差はほとんど見られませんでした。
※2 インフィニティ&CCCマーケティング総合研究所によるZ世代約1600人調査つまり、Z世代の多くで「節約・倹約」がベースにありながらも、興味ある分野には惜しみなくお金を使う「メリハリ消費」が、驚くほど顕著なのです。こうなると、どの分野に緩急をつけて消費するのかが百人百様で、マーケティングの現場でも、若者を「〇〇系」などと単純にカテゴライズ(クラスター分け)するのが難しくなっています。
では、そんな若者を捉えるうえで、私たちマーケッターが多くの企業にご提案する手法とは……? その一部を、最終章でご紹介しますので、ぜひそちらもご覧ください。
自ら“沼”にハマりにいく理由
一方で、デジタル&SNSネイティブなZ世代の多くは、物心ついたころからネット上で「無料」で得られる情報やサービスにふれてきたため、「まずはタダで楽しめないか」と探す習慣がついています。また、先のハルキさんがハマるゲームのように、入口は無料でも、高度なサービスやアイテムには課金される(フリーミアム)、あるいは数か月後には有料に切り替わる、といったビジネスモデルも増えました。
後者の場合は、「あと2日で無料期間が終わる」など時間に追われやすく、さほど見たく(読みたく)ないコンテンツでも「消費しなければ」と焦りやすい。今回取材した中にも、「(無料の)残り時間が少ないから、1.5倍速で全部見なきゃって夜更かししちゃう」(サクラさんほか)といった声が相次ぎました。こうした行動もまた、Z世代を「ケチでせっかち」や「タイパばかり気にする」などと他世代を勘違いさせるのかもしれません。
もっとも、初めは「無料の範囲で」と自制しても、そのタガが外れることもあります。
先ほどのハルキさんも、「つい課金しちゃった」と発言していましたが、ほかにも、漫画アプリの無料読み放題や、アニメストアの無料お試し期間に釣られたというZ世代から、「まんまとサブスク契約したオレ」や「結局は『沼って』、有料(契約)に移行する愚かさ」など、自分を「バカなオレ(私)」のニュアンスで評する若者が、複数見られました。
ちなみに「沼る」とは、何かに夢中になり、沼にハマるようにどっぷり浸かって抜け出せなくなること。弊社もよくご一緒する大手ゲーム会社などでは近年、脳科学の研究が進み、「コアループ理論」、すなわち心地よいアクション(ジャンプ、ブロック崩しほか)を繰り返させる(ループ)ことで、脳に快感をおぼえさせ、ドーパミンを放出させ、ユーザーが「もっとやりたい」と「沼る」ようなゲーム設計をするようになりました。
Z世代の多くは、そうした大人たちの企みに気づきながら、あえて「ハマってあげる」ニュアンスです。だからこそ「まんまと」や「つい」「愚か」など、自身を自虐的に形容しながらも、「わかっているけどハマっちゃう。そんな自分って、しょうがないなぁ」など、半ば照れながらも、どこか誇らしげなのでしょう。
