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会議中「あ、間違ってる」と気がついてしまった…上司にその場で指摘すると“評価が下がる”日本企業の部下

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米国人のリップサービスに隠された「合理的な判断」

ある経営学の国際学会での実例を紹介します。米国人の司会者が、ある大学教授の発表に対し、笑顔でこうコメントしました。

「大変興味深い研究ですね。今後も継続的に調査を進めてください」。しかしその後、司会者は友人にこう漏らしました。「私が担当したセッションには良い発表がなかった」。このようなリップサービス的な発言は、国際学会ではよく見られます。

このケースでの「大変興味深い研究ですね」という司会者のコメントは、リップサービスに当たります。実際には高く評価していないのに、肯定的な言葉を使ったのです。その目的は、場の空気をポジティブに保ち、セッションを円滑に進めることでした。

ここで重要なのは司会者の発言の「意図」です。この発言は、相手への配慮というよりも、場の空気や関係性の維持を重視したものでした。

このようなリップサービスには、社交辞令としての側面もあります。さらに「場のマネジメント」において有効なツールにもなります。司会者が直接的な批判を避けたのは、次の発表者が萎縮しないよう配慮したためです。セッション全体の雰囲気を保つという、合理的な判断だったといえます。

同じ学会で、初めて発表をする大学院生がいました。その大学院生は、不慣れな様子でプレゼンテーションを行いました。その後に休憩時間に入ると、司会者はその大学院生に声をかけました。「初めてであれだけできれば立派だよ」と励ましの言葉をかけたのです。

これは、大学院生の自尊心を守り、今後の挑戦を後押しするためのホワイトライの一例です。

空気を読み、調和を保つ…「タテマエ」にしかない性質

このように、リップサービスとホワイトライは、いずれも「本音とは異なることを言う」という点で日本の「建て前」と似ています。それでは、なぜ「建て前」が「タテマエ」という英語になったのでしょうか。

その理由は、建て前がリップサービスやホワイトライとは本質的に異なる性質を持つからです。

日本の建て前は、文化的に内面化された行動様式です。場の調和を保つことそのものが目的であり、必ずしも意図的・戦略的に使われているとは限りません。「前向きに検討します」は、典型的な建て前表現です。これは結論の先延ばしや意思決定の回避につながり、実務の効率を下げてしまうこともあります。

一方、リップサービスやホワイトライは、目的に応じて使い分けられる戦術的なコミュニケーションです。発言の裏にある意図は明確です。これは「空気を読むための反射的な反応」ではなく、「場をどう動かすか」という視点で使われています(図表)。

出典:『社内政治の科学』(日経BP)より抜粋 [図表]タテマエとリップサービス、ホワイトライの比較 出典:『社内政治の科学』(日経BP)より抜粋

こうした違いのため、タテマエは海外の人にとって戸惑いの原因になります。「何のためにやっているのか分からない」「本当は何を考えているんだろう」と感じる人もいます。

一方、日本人が海外の人たちと仕事をするときには注意が必要です。単に即決や衝突を避けるためだけにタテマエを使うだけでは不十分です。目的に向かって場を動かすためには、リップサービスやホワイトライを使いこなす力も必要です。

ただし、リップサービスとホワイトライは目的が似ていることが多く、実際に使う人も、自分の発言がどちらなのかを明確に区別しながら使っているとは限りません。

そのため、両者の境界線は必ずしも明確ではなく、実際の会話では両方の性質を持つ発言が存在します。

木村 琢磨

博士

昭和女子大学 教授

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