お取り扱いできません…銀行員からの“無慈悲な宣告”
しかし、ある日突然、忠司さんの楽観的な見通しが崩壊しました。
忠司さんが生活費を下ろすため、いつものように美里さんのキャッシュカードを銀行ATMに差し込むと、「このカードは使えません」と表示されたのです。
暗証番号を間違えたのかと思い慎重に入力し直しても、結果は同じです。仕方なく窓口で申し出ると、奥の仕切りのあるコーナーに案内され、座るように勧められました。
「やけに大げさだな」と思っていると担当者が現れ、衝撃のひと言を口にします。
「恐れ入りますが、こちらの口座は凍結されているためお取り扱いできません」
担当者の説明によれば、親族から「美里さんが認知症である」と連絡があったとのこと。
直後は思い当たる節がなく絶望した忠司さんでしたが、ほどなくしてひとりの人間が頭に浮かびました。
口座凍結を招いた妹の“密告”
忠司さんの妹・美和子さん(仮名・55歳)は、実家から車で1時間ほどの場所に、夫と子どもの3人で暮らしています。母の美里さんや兄の忠司さんとは折り合いが悪く、母が認知症になっても介護に一切関わろうとしませんでした。
忠司さんは、そんな妹に介護の相談をしても無駄だと諦めていたため、母の介護は自分ひとりでやり遂げるつもりでいたそうです。
一方、美和子さんは様子を探るようなLINEだけはときどき送ってきており、真面目な忠司さんは正直に現状を伝えていました。
近いうちに実家がリフォームされる予定であることを知り、美和子さんは忠司さんが母のお金を勝手に使い込んでいるのではないかと疑ったのでしょう。「母は認知症だから、お金を引き出せないようにしたほうがいい」と銀行に連絡していたのです。
口座凍結の影響
銀行口座が凍結されることで起こる弊害は、単にお金を引き出せなくなることだけではありません。自動引き落としになっている水道光熱費や通信費、保険料などの支払いも止まってしまう可能性が高く、そうなれば日常生活にさまざまな支障が生じます。
さらに、一度凍結された口座は原則、「成年後見制度」を利用して解除を進めるしか方法がありません。
忠司さんは仕方なく、家庭裁判所に後見開始の申し立てを行うことにしました。しかし、手続きには数ヵ月かかることもあると知り、当面の生活費をどう確保すればよいのかと、頭を抱えます。
結局すぐに打つ手はなく、妻に頭を下げ、子どもたちの教育費として貯めていたお金を一時的に借りることで、なんとか急場をしのぎました。
