
厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況」」によると、日本では同居20年以上の「熟年離婚」が、統計のある1947年以降で過去最高を更新し続けているそうです。しかし、離婚は決して簡単ではありません。朝日新聞取材班による著書『ルポ 熟年離婚』(朝日新聞出版)より、とある理由から「離婚拒否」に人生をささげた女性の事例を紹介します。
夫がホッとするのが許せない…離婚を渋る55歳女性
「5億円、慰謝料3,000万円払うので離婚してくれ」
都心のタワーマンションに住む元妻(55)は9年前、夫が申し立てた離婚調停に臨んでいた。夫側から提示された条件は、財産分与と慰謝料合わせて6億円近くを支払う、というもの。
だが、妻は首を縦にふらなかった。
法人経営者である夫は30代のころから愛人をつくり、浮気がたびたび発覚。妻はそのたびに探偵事務所に調査を依頼して相手の女性を突きとめ、別れるように迫ってきた。
だが、夫は数年前から単身赴任先で愛人と暮らし、都内のマンションには帰ってこなくなった。
夫から月額で180万円の養育費などをもらい、別居生活を送った。だが、夫は子どもが成人するタイミングで、こう言って頭を下げてきた。
「自宅のタワマンなど不動産、預貯金などから財産分与に上乗せして5億円を渡す。不倫については謝罪し、慰謝料3,000万円を払うので離婚してくれ」
それでも離婚に応じない妻…夫が動く
妻側はなかなか応じず、別居は長期化。しびれを切らした夫側から家裁に離婚調停を申し立ててきた。
不貞をした夫側が「有責配偶者」となるが、十分な慰謝料と財産分与、妻や子どもたちの長期の生活保障をするという破格の条件を提示。さらに別居期間も長くなり、「婚姻を継続し難い重大な事由がある」として裁判所が離婚を認める可能性も出ていた。
調停で夫側は、夫婦で築いた財産を分け合う財産分与として5億5,000万円、不貞の慰謝料として3,000万円を支払う条件を提示。代わりに不倫の相手に慰謝料を請求しないよう求めてきた。
一般的に、不倫の慰謝料の相場は多くて300万円程度なので、財産分与、慰謝料とも「破格の条件」といえる。
しぶしぶ離婚に応じた妻だったが…さらなるドロ沼に
調停委員や双方の弁護士は妻に対し、「これからの人生、生活にも困らない。過去にこだわって夫や愛人相手に訴訟を起こしてストレスを抱え込むより、調停を成立させたほうがよいのでは」と説得。妻はしぶしぶ応じた。
ところが、離婚調停が成立して数日後、妻は後悔の気持ちを弁護士に伝えてきた。
「5億円もらっても、夫と愛人がホッと安心して幸せに暮らすことが許せない。お金が少なくなっても、離婚訴訟をして愛人も巻き込んで苦しめたい」
妻は別の弁護士を立て、調停の不成立を裁判所に申し立てた。しかし受け付けてもらえなかった。
そこで妻は離婚届を役所に出さず、放置。夫側が調停調書をそえて離婚届を提出、受理され、財産分与は履行されたという。
しかし、妻の怒りは収まらず、矛先は調停を担当した弁護士にも向かった。
離婚調停を無理強いされたと弁護士報酬の支払いを拒否。弁護士は報酬支払いを求めて訴訟を起こし、妻は敗訴したという。
積年の恨みの果て
一連の経過を知る辻千晶弁護士は「長年、積もった怨念が強い場合、自分自身の幸せよりも、調停や訴訟で相手を苦しめることが目的化する。それが終わってしまうとストレスが増し、精神のバランスを崩してしまうケースもあります」と語る。
熟年離婚の相談があった場合、辻弁護士はこんなアドバイスを心がけているという。
「もらうものをもらって離婚すればすっきりしますよ。前向きに人生を考えましょう」
朝日新聞取材班
