実力派がひしめく鮨の世界で、今ひときわ注目を集める麻布十番の一軒『みつい』。銀座『青空』で研鑽を積んだ大将が描くのは、鮨を「味わう」だけでなく、「楽しむ」ための舞台だ。
店全体に絶妙な一体感をもたらすカウンターで、鮨の楽しさを再確認する
変形カウンターは、「ひとつのテーブルを囲む雰囲気で、どの席も疎外感が出ないように」との心遣いから。カウンターに使用する吉野の檜は、店主が自ら現地に赴き選んだもの
元は和食店で修業を積んでいた三井 祥さん。しかし鮨への興味が募り、銀座の『青空』へ食事に行った際、高橋青空さんの鮨職人としての凛とした姿に感銘を受け、鮨の世界に飛び込んだ。
それから8年半、高橋氏のもとで心技を磨き、西麻布『鮨 祥』の店主を務め、今年5月に『鮨 みつい』を独立開業。
長野に生まれ、和食店を経て銀座『青空』で修業を積んだ三井さん。今年37歳だが2011年には「35歳で自分の店をもつ」とノートに書き、『青空』時代にも目標を書き記していた
既に食通の間で信頼を得ているのは、三井さんが生来の美味しいもの好きで、日本各地を巡って選ぶ絶対的な食材がそろう点にもある。
魚介に限らず、飛騨のパプリカ農家や宮崎の焼酎蔵も訪問。美食のお宝に目がない人物なのだ。
長く懇意にする「やま幸」のまぐろの中トロは出雲の塩で。「浅い所を泳いで体力が残っているまぐろは元気で美味しいです」と話す三井 祥さんは、食材への好奇心が尽きない職人
貴重な食材をいかに大切に扱っているかは、「やま幸」のまぐろが象徴する。中トロは塩、赤身は漬け、大トロは醤油と手札を変え、3貫連続でまぐろの多彩な表情を見せてくれる。
中トロにのせる塩は新月の夜に汲む海水から作る出雲の「たましお」を採用。これがまぐろの香りをダイレクトに引き出し脳裏に焼きつける。
くじらの中で最高級とされる尾の身(背びれから尾の付け根)。細やかで柔らかい筋に口どけのよい脂が入る
中盤の注目は珍しいくじらの握り。そのリッチな肉質が、長野で高地栽培されたコシヒカリによる酢飯の酸味と抜群にはまるのだ。
すかさず桃色の古代米酒を煽れば、悦楽的な美味しさ。
一週間寝かせた白甘鯛は噛むほどに甘みが出てくる。身が付け台にのるかのらないかの絶妙なサイズが美しい。
三井さんと共に立つのは、広尾にある『鮨 ゆうき』で修業を経験した大内達雄さん。
カウンターの中にある焼き場も任されている。
永楽の器に盛られた汲み上げ湯葉の毛蟹あんかけ。愛知県祖父江町の銀杏の甘さと香ばしさが効いている。
ノドグロの焼き物の下は、穴子を炊いた出汁で炒め煮にした飛騨の赤パプリカ。肉厚な果実のような食べ心地で、ノドグロの上質な脂を鮮やかにする。
コース¥28,750。
お酒をサーブするのは三井さんの妻であり女将の美紀さん。女将の故郷、沖縄からの甕出し古酒も用意。
日本酒を主軸としたペアリングもあり。例えばくじらに合わせるのは、右端の京都・向井酒造の「伊根満開 古代米酒」。
ペアリングは適切な提供温度にも注目。
羽釜で50~60℃に温める“蒸し燗”は日本酒の魅力を引き出し、大トロや小肌と合わせれば魚の脂を丸く感じられる。ペアリング¥7,700。
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若き大将が開く味蕾は、来年以降、さらに貴重な体験となるにちがいない。
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