いつまでも輝く女性に ranune
「LINEブロックされてる?」復縁したい元彼に勇気を出してメッセージを送ったら、未読スルーされ…

「LINEブロックされてる?」復縁したい元彼に勇気を出してメッセージを送ったら、未読スルーされ…

◆これまでのあらすじ

早紀の夫であり会社の先輩でもある六郎に、かつて想いを寄せていた双葉。そんな双葉の後悔を元にしたアドバイスで、別れた元彼・豪のことが忘れられない市子は、もう一度豪に気持ちを伝えようとしていた。

一方の豪は、会社の後輩であるお嬢様・栞からアプローチを受けていて…?

▶前回:22時、彼からの呼び出しに喜んでついて行った女。 しかし、期待していたような展開にはならず…

Vol.9 <市子:六本木のポークカレー>


実家というものは、3日で飽きるようになっているのかもしれない。

1日目は、懐かしい自分の部屋やリビング、元気そうな家族の姿にホッとする。

2日目もまだまだ居心地がいい。心も体もすっかり緩み、自分が日頃思っていたよりも気を張っていたことに気づかされる。

そして、3日目…ともなると、だんだんウンザリしてくる。まるで、作りすぎたカレーみたいだ。と、実際3日目になる母のカレーを食べながら思った。

イベント運営という仕事柄、年末年始は帰れなかった。だからこそ、仕事が少し落ち着いたこの3連休は鎌倉の実家でゆっくり過ごすことにしたのに──。

「お母さん、もうお正月の色んなおもてなしで疲れちゃって。悪いけどこの3連休は毎晩カレーにさせてもらうことにしたから」

久しぶりに帰るなりそう言い放った母は、本当に毎日、夕食にカレーを出してくるのだ。

― この大雑把な母のもとで育ったからこそ、私って高校生までぽっちゃりしてたんだよなぁ…。

母の作るカレーは骨付きの鶏肉をじっくり煮込んだチキンカレーで、何やら母なりの隠し味が色々と仕込んであるらしく、お世辞ぬきに美味しいカレーだと思う。

でも。それにしたって3日連続ともなれば、どんなにおいしくてホッとする味でも飽きてくるものだ。

「20時以降は食べない」というルールを撤廃したとはいえ、やっぱり太りやすい体質の私は、日頃の食事はヘルシーなものにしたりと気を使っている。こうまで連続でカレーだと、カロリーだって気になる。

それなのに、盛り付けを少なくしようものなら父も母も「もっと食べろ」とか「痩せすぎ」だとか…全然放っておいてくれないのだから嫌になってしまう。

さらには、これは26歳というアラサー女子にとってのいわゆる“年末年始あるある”というヤツなのかもしれないけれど…。

私に対する両親の話題は、どんな角度からでも最終的に“あるテーマ”に着地する。

私はなによりそのことに特別の鬱陶しさを感じているのだった。

両親がとにかく気になっていること。それは、私の異性関係についてだ。

「最近どうなの?」

「いい人はいるの?」

「一度くらい誰か連れてこないの?」

「幼馴染のあの子もこの子も、もう結婚したのよ」───。

仕事の話も国際ニュースも、友達の話も芸能人のゴシップも。結局どんな話題も、最後に行き着くところは結婚の話。

別に、遅い反抗期中というわけでもない。「早く彼氏のひとりでも紹介してよ」みたいな軽いノリであれば、私だって「ハイハイ」で終わらせることができる。

でも、最近は両親くらいの年齢になっても、ネットやテレビで色々な価値観に中途半端に触れているらしいのがややこしい。

「今時は、40歳くらいまで結婚しなくても普通なんだもんな…?」

「市子が好きになった人なら、お父さんもお母さん、どんな人でも応援しようっていつも話してるのよ…?」

あんまりスルーを続けすぎると、おかしな気遣いまでしてくるのには参ってしまうし、なんだか申し訳ない気分にもなってくるのだ。

― はあ、悪気がない分タチが悪い…。

そんなことを考えながら夕飯のカレーを進められずにいたところ、母との会話は「今の会社は忙しすぎるんじゃないの?」から始まり、「女の子なのに仕事ばっかり」を経て、やっぱりたどり着いたのは結婚の話だった。

「来年のお正月は、市子が誰か連れてくることもあるかもねぇ」

実家にも、この話題にも、カレーにも飽き飽きしていた私は、もう上手い返事が見つけることができずに無言でスプーンを置く。

そして、テレビから流れるお笑い番組の空笑いをBGMに、心の中で思い切り叫ぶのだった。

「私だって、できることなら豪くんを連れてきたいよー!!!」…と。


消耗し切った私が逃げ込んだのは、2階の自室だ。

結局カレーはあまり進まなかったから、お腹は軽く空いている。どこかでおしゃれな場所でゆっくり美味しいものが食べたかったけれど、時刻はもう21時過ぎだし、このあたりには日曜日の夜遅くまでやっている店なんて思いつかない。

コンビニくらいならあるけれど、そんなものを夜食にしてしまっては罪悪感の方が優ってしまいそうだ。手持ち無沙汰な私はこの家では結局、自室を整理することくらいしかやることがない。

だけどそれはそれで、違う種類の辛さがあるのだ。

だってここは、私が18歳まで過ごした部屋なのだから。

それはつまり、高校生の頃の自分が豪くんへの想いを募らせていた場所…ということでもある。

クリスマスのイベントの前夜。夜の新宿で女の子と歩く豪くんを目撃して、眠れずに近所のおでん屋さんに駆け込んで…。美味しいダシで体温を取り戻し、勇気を振り絞って送ったLINE。

『久しぶり。少し話せないかな?』

たったそれだけの短いメッセージだったけど、送る時は指先が震えたし、勢いをつけるために全く飲めないお酒まで一杯飲んでしまった。

だけど…。

結局そのメッセージは、夜中に送信取消しをしてしまった。

だって、おでんを食べ終わり、お酒まで一杯飲んで、それからゆっくり歩いて家に帰ってからも、ついにそのメッセージは既読にならなかったから。

豪くんのLINEの返信がものすごく早いことは、よく知っている。

再会してから付き合っている間もずっと、豪くんはいつだってどんな時だって、すぐに返信や通話を返してくれたのだ。

そんな豪くんに送ったLINEが何時間も既読にならないなんて、普通のことじゃない。

未読スルー。考えられる理由はただ一つ…。

…と、それ以上考えを進めることができなくなった私は、気づいたときにはメッセージを取り消していた。吐き気と動悸に襲われたのは、珍しく飲んだお酒のせいじゃなかった。

だって、恥をかく準備はできていたけど。

当たって砕ける覚悟はできていたけど。

まさか、ブロックされるくらい完全に嫌われているかもなんて───。

そんなのあまりにも恐ろしすぎて、とても受け止められそうにはなかったから。


それ以来、結局連絡はできていない。

とにかく何も考えたくなくて、年末年始はクリスマスも大晦日もお正月も仕事をしまくって過ごした。

ついに仕事も落ち着いてしまって、豪くんの思い出ばかりの東京でから目をそらすために帰ってきた実家だったけれど、私の考えはなんて浅はかだったのだろう。

だって、豪くんとは高校の同級生だったのだ。よく考えてみれば、私の地元は豪くんの地元でもある。豪くんの思い出からは逃れられるわけがない。

― ああ。神様、助けて〜!

26歳にもなって、高校時代の勉強机に突っ伏して神頼みしかできない自分がつくづく嫌になる。

だけど、おでこを机にぶつけながらひとつ気づいたことがあった。新年を迎えたというのに、まだ初詣に行っていない。

どこにも居場所がない気持ちになっていた今の私にとってそれは、今できる最適な気分転換のように思えた。



「はあ〜、さむっ!」

1月の夜の風は、刃物みたいに冷たい。閑散とした神社の境内ともなれば、寒さはなおさらだ。

石畳の冷気はUGGのブーツ越しにも伝わってきて、ろくに夕飯も食べていない体を芯から冷やす。

だけど私は不思議と、この感覚が嫌いじゃなかった。

鎌倉は、初詣の一大スポットだ。鶴岡八幡宮や江島神社などは、毎年たくさんの人でごった返すことになり、とてもじゃないけど新年を迎えてすぐに行く気にはなれない。

だから我が家の初詣は昔から、時期を少しずらした上で人けのない夜や早朝に行くことが珍しくなかったのだ。

思い立って訪れたのは、近所の小さな神社だ。

人気の神社じゃないのだから、この時期であれば日中でも全然混んではいないだろうし、22時をすぎた神社なんて不気味に感じる人もきっといるだろう。

でも私にとっては、こんなふうにおかしなタイミングで来てこそ初詣という感じがする。

― そうだよ。せっかく新年になったんだし、気持ちは切り替えないといけないよね。

誰も聞いていないのだから、いっそ大きな声で「豪くんを忘れさせてください!!」と叫んでしまおうか。

そんなふうに考えながらお賽銭箱の方へと近づいていった私は、珍しく先客がいることに気がついた。

22時すぎの神社で後ろから足音が聞こえたことに、先客も気をとめたのだろう。鈴を鳴らそうとしていた背中がゆっくりと振り向く。

そして、その顔を見た途端。私は、冷えた体がさらに氷みたいに一瞬で冷たくなるのを感じた。

夜の神社でこちらを振り帰った先客。本当に、本当に、信じられないことにそれは────豪くんだったのだ。

時間が止まったかと思うほどの沈黙のあと、私たちはぎこちなく声を掛け合う。

「えっ…」

「えっ…」

「…市子、なんで?」

「え、だって。ここ私の実家から一番近い神社だから。この連休、帰ってきてて」

「あ、そっか…」

「あ…豪くんはなんで?こんな小さな神社」

「いや、俺もこの三連休実家帰ってきてて。初詣しようと思い立ったんだけど、車停めるのここが一番便利だから」

「あ、そうなんだ…」

口から自動的に出る中身ゼロの会話は、出来の悪いbotみたいだ。だけど、信じられない偶然のあまりの衝撃に、そんなポンコツな回答すら続けられなかった。

お互いにしばらく沈黙した後、豪くんからの声掛けで、私たちは並んでお詣りをした。

もちろん声は出さなかったからお互いのお願いごとはわからない。

それ以前に私の頭の中は真っ白で、私の初詣は結局、「豪くんを忘れさせて」とも「よりを戻して」とも願えずじまいだった。


ふたりで奇妙な初詣を済ませた後。気がつくと私は、豪くんのハリアーの助手席に座っていた。

「さすがにこんな時間だし、送るよ。ひとりで歩いて帰るなんて危ないって」

そう言って譲らない豪くんに押し負けてしまったものの、久しぶりに乗る助手席は苦しすぎる。

― 私のこと嫌いになったのに、ブロックしてるのに、どうして優しくするの?

会話はなかった。頭の中に出てくるのは、その言葉だけだったから。

変わってしまったのは私たちの関係だけだった。助手席からの眺めは悲しいくらい、何一つ変わっていない。

シートについた小さなコーヒーのシミ。カップホルダーに入っているガムのボトル。運転席のシートベルトをするのに少し手間取る豪くんの姿に、どこかからほのかに漂ってくるカレーの香り…。

― え?カレーの香り…?

さっと血の気が引いた私は、慌てて自分の服をつまんでクンクンと匂いをチェックする。ブロックするほど嫌われているのに、「カレー臭い女」という思い出まで付いてしまったらもう立ち直れない。

「え、どしたの?」

エンジンをかけた豪くんに怪訝な顔で聞かれて、私は慌てて弁明をする。

「あ、ごめん!なんかカレーの匂いする…って思って…!」

― 最悪…。私、挙動不審すぎるよ…!!

どのみち立ち直れそうにない事態に追い込まれてしまった私は、もうどれだけ豪くんに気遣ってもらおうが車を降りようと心に決める。

だけど、半泣きでドアに手をかけた──その時だった。

「あ、わかる!?」

豪くんはパッとイタズラっぽい顔を浮かべて、後部座席からビニール袋を取り出す。

その袋の中には、本当にカレーが二つ入っているのだった。

「これ!今買ってきたんだよ。実家帰ってきたんだけど、マジで嫌になるくらい餅の消費ばっかりさせられててさ。無性にカレー食べたくなって、テイクアウトしてきたの」

「そうなんだ、この辺にそんなお店あったっけ…?」

「ううん、六本木。ほら、結局一緒には行けなかったけど、深夜までやってる中華あるって前に言ったじゃん?とりそばと並ぶ隠れ名物にこのカレーがあってさ」

「え…?カレーのテイクアウトするためだけに、鎌倉から六本木までわざわざ」

「いやいやいや、ここのカレーはそれくらいの価値あるんだよ。でも流石にひとつだけ買うのは悔しくて、謎にふたつ買ってきた。あ、食べる?」

興奮してそう話す豪くんは子どもみたいに嬉しそうで、さっきまでの沈黙が嘘みたいだ。豪くんも、自分でもそう思ったのだろう。急にハッとした顔に戻ったかと思うと、照れくさそうにカレーをしまい出す。

「あ…市子はこんな深夜にカレーなんて食べないよね。ごめん、なんかテンションあがっちゃって」

だけど私はそんな豪くんを前にして、強く強く思うのだった。

この人が好き。豪くんのこういうところが、昔からずっと大好き。

だから、最後にこんなふうに楽しく話せたのが嬉しくて、豪くんの好きなものを一緒に味わいたくて…精一杯の笑顔で伝えた。

「食べたい、お腹空いた!」


発泡スチロール製の使い捨て容器に入っていたのは、素朴なポークカレーだ。

薄い豚肉と玉ねぎだけの具がシンプルだけど、鶏ガラスープが効いたあんかけのルーは、辛味控えめで優しい味がする。

凍えそうな冬の夜に、暗くて暖かい車内で食べる、不思議な夜食。

よりによってあれほどウンザリしていたカレーだというのにこんなに美味しいと思うのは、美味しいカレーだということはもちろん、大好きな人と一緒に食べているからなのだろう。

ひとくちひとくち旨みを感じながら、すっかり平らげる。温かな夜食の持つパワーのおかげで私の体にはまた、おでんで勇気をもらったあの夜と同じように、小さな勇気が宿っていた。

「美味しかったぁ」

「…20時以降食べないっていうの、やめたの?」

「うん。だってもう、意味無くなっちゃったから」

豪くんは、ピンときていない表情を浮かべるのは当たり前だ。私がどれだけ太ってしまおうと、もう豪くんには関係のない話なのだから。

「送ってもらう上にカレーまでご馳走になっちゃうなんて、ごめんね。…これでもう本当に終わりだから、安心してね」

最後はやっぱりかっこよくお別れしたくて、未練のないふりをする。双葉ちゃんには怒られそうだけど、これが私なのだ。すでにブロックされるくらい嫌われていても、豪くんの中の最後の私は、情けない顔でいたくなかった。

だけど…実家までほんの少しのドライブの間に豪くんがポロッと漏らした言葉に、私は思わず動揺してしまう。

豪くんは、なんでもない顔でこう言ったのだ。

「あ、そういえばさ…。偶然会えたから聞くけど、この前夜にLINE送ってきてくれた?

間違いだったらいいんだけど、あの日夜中まで鮨食べててさ。ポップアップ見て、後で返そうと思ったら消えてたから、人違いしたのかなって」

「え…?待って、ブロックしてるんじゃないの?」

「ブロック?」

「私のLINE、ブロックしてない?」

「俺が?市子のLINEを?え、なんで?」

キョトンとした顔で運転する豪くんは、とても嘘をついているとは思えない。そもそも豪くんは、嘘をつけないタイプの人間なのだ。だからこそ、こんなに好きになった。

「え…じゃあ」

― ブロックするほど嫌われてるというのは、私の早とちりだった?

覚悟を決めていたはずの心が、ぐらぐらと揺れる。もう一度最初からゆっくり考えたかった。

だけど、そんな時間は取れそうにない。ハリアーの高い視界の目前には、私の実家が迫っていた。

車が停まり、また少しの沈黙が訪れる。

ブロックされていないというのは嬉しい事実だったけれど、地元の神社で深夜に偶然出会うなんて奇跡は、きっともう二度とない。

新宿の夜の女の子の姿が脳裏に浮かぶ。もう一度LINEを送る勇気が出たときには、何もかも遅すぎる可能性は十分にあった。

「じゃあ、まだ好きでいてもいい?」

気がつくと、自動発言モードがまた発動していた。

さっきまで未練のないふりをしていたのに、なんて節操のなさだろうと理性がツッコミを入れる。だけどこの2ヶ月の間、ずっと後悔してきたのだ。今何も言わずに車を降りてしまって、後悔が一層深くなることの方が怖かった。

「私はまだ豪くんが好き。もう一度、戻れない?」

今度は勢いに任せた言葉じゃなかった。優しいポークカレーで得た勇気を振り絞って、覚悟して伝えた自分の言葉だ。

でも…やっぱり、私たちの関係だけは変わってしまっていたらしい。

「ごめん」

深夜の住宅街はすごく静かで、小さな声でもよく聞こえる。

シートについた小さなコーヒーのシミも、カップホルダーに入っているガムのボトルも変わらない。

それなのに運転席の豪くんは、悲しい顔で下を向いていた。


▶前回:22時、彼からの呼び出しに喜んでついて行った女。 しかし、期待していたような展開にはならず…

▶1話目はこちら:細い女性がタイプの彼氏のため、20時以降は何も食べない女。そのルールを破った理由

▶Next:1月19日 月曜更新予定
せっかく気持ちを伝えられた市子だったが…。一方、再び夫との距離を縮めた早紀の決意

配信元: 東京カレンダー

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