金融界の旗手で大手銀行の一つ、チェース銀行はアメリカの都市部に点在します。その親会社であるJPモルガン・チェースは近年、全米の主要な空港にラグジュリーなラウンジを広げる取り組みをしています。大手金融機関のビッグ3の一つでウォール街を牛耳る金融の巨頭が富裕層の旅行者を対象にラウンジサービスを展開する理由とは?その背景を探ります。
金融機関の空港ラウンジが拡大中
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JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー(JPMorgan Chase & Co.、以下 JPモルガン・チェース)は、ニューヨークに本社を構えるアメリカ最大の金融持株会社です。傘下の消費者向け、チェース銀行(Chase Bank)は全米中に約5千の支店と1万5千台のATMを展開し、市民生活に深く根付いています。ニューヨークやロサンゼルスなど主要都市を訪れたことがある人なら街中でよく見かけたことでしょう。
その親会社であるJPモルガン・チェースが、富裕層の旅行者に向けて高級ラウンジ「チェース・サファイア・ラウンジ・バイ・ザ・クラブ」(Chase Sapphire Lounge by The Club、通称サファイア・ラウンジ)を全米の主要な空港で展開中で、空の移動が多い富裕層の間では知られるところです。
サファイア・ラウンジでは軽食やドリンク、WiFi、休憩や仮眠、シャワーやスパ、各種エンタメなどを利用でき、搭乗までの待合い時間を快適かつ優雅に過ごすことができるとされています。 2022年に香港*にオープンして以来、このサファイア・ラウンジの数は少しずつ増え、25年12月にもラスベガスのハリー・リード国際空港に新ラウンジがオープンしたばかり。今後もダラス(DFW)やロサンゼルス(LAX)とオープニングは続きます。
(*香港のラウンジは26年初めにクローズ予定)
このサファイア・ラウンジは数々の受賞歴があることでも知られています。例えばニューヨークのラガーディア空港にある同ラウンジは7つの賞を、ボストンのローガン国際空港にある同ラウンジは2つの賞を受賞するなど、その実績は業界で広く認められているところです。
一方、トリップアドバイザーなど口コミのネット掲示板を見ると「スタッフは親切だった」といった好意的な声がある一方で、「混雑していた」といった不満の感想も散見されます。
サファイア・ラウンジに限らず、一般的に世界各地の空港ラウンジを利用するには、何らかの会員資格や条件が必要となります(一部の空港には当日の購入で入れるラウンジもあるが主流ではない)。中でももっとも広く知られている会員制サービスが「プライオリティ・パス」です。
プライオリティ・パスは有料の会員制サービスですが、プレミアムクラスのクレジットカードを保有することで、特典として付帯されるケースも少なくありません。
プライオリティ・パスとは?
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世界中の1800以上の空港ラウンジや各種サービスを利用できる会員制サービス(一部条件付き)。年会費はスタンダードが99ドル(現在は30%オフの69ドル)、スタンダードプラスが329ドル、プレステージが469ドル。ただしスタンダード会員は1回の利用ごとに35ドルかかり、スタンダードプラスは10回まで追加料金なし、プレステージは回数制限なしなので、旅行が多ければ多いほどプレステージがお得になる。
冒頭のJPモルガン・チェースのプレミアムクラスのクレカ「チェース・サファイア・リザーブ」および「チェース・サファイア・リザーブ・フォー・ビジネス」も、航空券、ホテル、旅行保険など旅のさまざまな特典が付帯します。中でも特に価値が高いのは、空港ラウンジへのアクセスだとする見方もあります。
JPモルガン・チェースのクレカ会員にもプライオリティ・パスが無料で付帯され、面倒な申し込みは不要です。カード会員になれば、旅行時に自動的にサファイア・ラウンジやプライオリティ・パス対応のラウンジを利用できるのです。
(情報源は25年10月25日現在。最新情報はこちらで要確認)
これらチェース系のプレミアムカードの年会費は各795ドル(約12万4000円)と一般のカードより高額ですが、プライオリティ・パスの特典のほかにも年間300ドルの旅行クレジットやボーナスポイントなどさまざまな特典があり、年会費以上の価値を感じやすい構成になっているようです。
富裕層向けカードと空港ラウンジの連携はトレンド
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サファイア・ラウンジは前述のチェース系のプレミアムカード会員以外に、J.P.モルガン・リザーブやザ・リッツ・カールトンのカード会員も利用できます。
空港ラウンジの中にはアメリカン・エキスプレスが特別会員向けに運営しているセンチュリオン・ラウンジもあります。25年7月、羽田空港(T3)に日本初の同ラウンジがオープンし、移動の多い富裕層の間で話題になりました。
クレカ事業のプレミアムな付帯サービスとしての空港ラウンジは拡大中で、そのような富裕層向けカードと空港ラウンジの連携は近年のトレンドと言えるでしょう。
この背景には、富裕層の囲い込みというビジネス戦略的な意味合いがあると考えられます。富裕層が旅行時に使うカードの決済額が増える可能性は当然高く、カード会社にとってはクレカの年会費も含め、利益率アップが期待されるものです。
高い年会費を支払ってもらう代わりに、空港ラウンジへのアクセスをはじめとする充実した旅行特典をセットにすることで、カード所有の価値を高めているのです。
空港ラウンジは、旅行回数の多い顧客へ向け特別感を演出する場になります。日常的な銀行サービス(預金やローンなど)の競争が増す中、顧客ロイヤリティの強化を図っているのでしょう。こうしたワンランク上の旅行体験を提供すれば、他行カードへ乗り換えしづらくなりますから。
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日本でも年会費が割と高めのプレミアムカード、例えばJCBプラチナ(年2万7千500円)、セゾンプラチナ・アメリカン・エキスプレス(年3万3千円)、三菱UFJカード・プラチナ・ビジネス・アメリカン・エキスプレス(年2万2千円)などが注目されています。
アメリカのプレミアムカードの会費はさらに割高です。冒頭で書いたチェース・サファイア・リザーブ(年795ドル)以外にも、例えばアメックス・プラチナは年895ドル(約14万円)で、空港ラウンジへのアクセスに加え、最大600ドルのホテルクレジットや最大200ドルのUber代金など、年間3500ドル(約54万円)分の価値が付帯されています。シティ・ストラタ・エリートは年595ドル(約9万3000円)で年間1500ドル分の価値が付帯されています。
(* 年=年会費)
そのようなプレミアムカードとはさらに別格の、超富裕層向けアメックス・センチュリオン/ブラックまで存在するのは、さすがはクレカ黄金期ですね。
これは招待制の最上位カードで、限定会員だけに発行されるものです。年会費がいくらか気になりますが、会員向けにログインサイトがあるだけで、公式サイトでも詳細や特典は確認できません。超特別待遇であることは間違いなく、噂ではパーソナルコンシェルジュ(専用高級サービス)、プライベートジェットの手配サポート、高級ホテルやレストランでのプレミアムなサービスなどが含まれているとみられます。
全体的にプレミアムのクレカの年会費は近年、上昇傾向にあります。同時に、年会費の高さを上回る特典をセットで提供することで付加価値を打ち出しており、冒頭で紹介した、銀行自らが協業して運営する空港ラウンジもそうした流れの中で生まれた戦略の一つでしょう。以前ならカード会社発行のクレカ自体で富裕層を囲っていた市場に、近年は銀行などの金融系が積極的に参入してきているのが興味深いところです。