
親などから不動産を相続した場合、通常は国税庁が定める「財産評価基本通達(評価通達)」に基づいて不動産の価値が算定され、その評価額をもとに相続税額が決まります。評価額が高くなるほど相続税も増えるため、納税者としては「実際の不動産の価値は通達による評価額より低いのではないか」と感じ、評価額に不満を抱くこともあるでしょう。そこで本記事では、実際に相続人と税務署が争った裁決事例をもとに、不動産評価をめぐる「評価通達」と「鑑定評価」の関係、および相続税申告における注意点についてみていきましょう。
不動産評価が“実情”と見合わない…鑑定評価を巡る裁決事例
相続税の申告において、不動産の評価は申告額に直結する重要な要素です。
土地の評価は、国税庁が定める「財産評価基本通達(以下、評価通達)」に基づき、原則として画一的な方法で行われます。評価通達は、全国どこでも同じ基準で評価できるように設計された制度であり、課税の公平性や予見可能性を確保する役割を担っています。
しかし実際には、不動産の価値は立地や形状、利用状況、需給バランスなどによって大きく変動するため、通達に基づく評価額が実勢価格とかけ離れてしまうケースも珍しくありません。
今回は、相続人が「通達による評価は不動産の実情を反映しておらず、過大評価になっている」と主張し、不動産鑑定士による鑑定評価書を用いて更正の請求を行ったものの税務署がこれを認めず、国税不服審判所で争われることになった事例を紹介します。
この裁決で争われたのは以下の2点です。
1.対象となる土地について、評価通達によらない評価を認めるべき「特別の事情」が存在するか
2.納税者が提出した鑑定評価額が、相続税法上の「相続開始時における時価」として合理性があるか
相続人は、「画一的な通達評価では不動産の実情が正しく反映されない」として、鑑定評価に基づく評価額を採用すべきだと主張し、相続税額の減額を求めました。これに対し税務署は、「特段の事情は存在しない」として通達評価の維持を主張。
これにより、裁決では「特別の事情」の有無と「鑑定評価の信頼性」が主要な争点となりました。
需要が低く形状に難ありの土地は「特別の事情」にあたるか
相続人の主張
相続人は、「本件土地は形状に難があり、利用価値も限定的であることから、通達で定められた路線価で評価すると実勢価格を大きく上回り、実情とかけ離れた評価となっている」と主張。これを裏づけるものとして、相続開始直後に不動産鑑定士へ依頼して作成した「鑑定評価書」を提出しました。
この鑑定評価書では、地域的な需要の低さや前面道路の幅員の問題、変形地による利便性の低さなどを挙げたうえで、土地の市場価値は通達評価額の7割程度であると算定されていました。
相続人は、これらの事情は「評価通達6項にいう『特別の事情』に該当する」と主張し、「不動産鑑定評価額に基づく減額更正」が認められるべきだと訴えました。
税務署の主張
これに対し税務署は、一貫して「評価通達に基づく評価は妥当である」との立場をとりました。
まず、評価通達は課税の公平性を確保するために設けられたルールであり、一定の評価のばらつきが生じることを前提とした制度設計となっていることから、実勢価格との差異があったとしても、それだけでただちに「特別の事情」に該当するとはいえないと指摘しました。
また、相続人が主張する「土地形状や道路条件などの個別事情」は、評価通達のなかでも一定程度考慮されている要素であり、通達評価が実態を無視したものとはいえないと指摘。つまり、通達評価には十分な合理性があり、あえて鑑定評価に基づく評価方法へ変更する必要性は見出せないとしました。
さらに、鑑定評価書についても、その信頼性にも疑義があると指摘しました。
具体的には、通達評価より大幅に低い評価額を示しているにもかかわらず、その根拠や評価過程の詳細が不明慮であること、また鑑定書自体が相続開始から一定期間経過後に作成されており、「相続開始時の時価」を示す資料としての妥当性に欠けると評価しました。
