
個人事業主が車の買い替えを検討する際、「売却のタイミング」によって数十万円、場合によっては数百万円単位の税負担を負うリスクがあることはご存じでしょうか。車両売却時に潜む「二重課税の罠」について、税理士法人グランサーズ共同代表で公認会計士・税理士の黒瀧泰介氏が解説します。
事業用車両を売るタイミングに注意!二重課税の罠とは
個人事業主が車を買い替えるタイミングのひとつに「減価償却期間の終了」があるでしょう。
ただ、実はそのタイミングで、知らないうちに「所得税」と「消費税」二重の税負担が発生するケースがあります。
売却益は「事業所得」ではなく「譲渡所得」
多くの個人事業主が勘違いしている最大のポイントがここです。
たとえ売却する車が事業のために使用されていたとしても、その利益は事業所得にはならず、譲渡所得として別の区分で計算されます。計算式は下記のとおりです。
【譲渡所得の計算式】
譲渡所得=譲渡価格-(取得費+譲渡費用)−特別控除50万円
また、事業とプライベートを按分している場合は、事業割合だけを計算対象にします。なお、すでに経費にした減価償却費は取得費から差し引かれるため、帳簿価額が低いほど譲渡所得が大きく出てしまう点には注意が必要です。
ちなみに、譲渡所得は総合課税なので、本業の事業所得と合算されて高い税率が適用されます。
では次に、具体例を見ていきましょう。
1,200万円の新車を2年後に1,000万円で売却した場合、譲渡所得は次のような計算になります。
【前提条件】
1.8:2で事業用とプライベートで按分していたケース(8が事業用)
2.減価償却期間は2年
【計算式】
事業用売却額800万円−(事業用取得費960万円−累積償却320万円)−特別控除50万円
=譲渡所得110万円(本業所得と合算され所得税発生)
この計算は実務上非常に複雑です。そのため、個人で正確に申告するのはほぼ不可能でしょう。
車両売却額が「消費税の課税売上」にカウントされる
年間売上1,000万円以下の免税事業者にとっての要注意ポイントです。
消費税法では、事業用固定資産(車両含む)の売却収入は課税売上に含めて判定します。
たとえば、仮に事業売上が700万円だった場合、車両を500万円(事業割合70%)で売却すると、「事業売上700万円+社用車売却額350万円=課税売上1,050万円」となります。
これにより、基準期間の課税売上が1,000万円を超え、2年後から消費税の課税事業者になってしまうというわけです。
この仕組みを知らずに「消費税納税義務者になってしまった」と後悔する個人事業主が後を絶ちません。
「二重課税の罠」を回避する対策
二重課税の罠にかからないようにするためには、次のポイントに気をつけましょう。
免税事業者は売却額と事業割合を慎重に調整
1,000万円を超えないよう売却額を抑えるか、売却自体を1年繰り延べるのも有効です。
中古車購入時は注意
中古車は耐用年数が短く償却が早く終わるため、売却時の帳簿価額が低くなりがちです。これにより、譲渡所得が大きく出るリスクが高まります。
リース利用を検討
所有権はリース会社にあるため、売却の概念がなく、譲渡所得も消費税判定も発生しません(ただし契約内容により会計処理は異なります)。
リサイクル料金の盲点にも要注意
購入時に支払ったリサイクル預託金は、売却時に買取業者から返還される場合があります。
この返還金も売却代金の一部とみなされ、譲渡所得の計算に含めなければなりません。見落とすと申告漏れになるため注意が必要です。
